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半身浴の正しいやり方は?入浴時間や適切な温度など半身浴の効果やメリットを解説
温泉療法専門医
監修:早坂信哉
東京都市大学人間科学部教授・博士(医学)・温泉療法専門医。高齢者医療の経験から入浴の重要性に気づき3万人以上の入浴を調査した、入浴や温泉に関する医学的研究の第一人者。「世界一受けたい授業」「あさイチ」「チコちゃんに叱られる!」などテレビやラジオ、新聞や講演など多方面で活躍中。著書「入浴検定公式テキスト」(日本入浴協会)、「最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案」(大和書房)など。
朝にシャワーを浴びて目を覚ましたい人、1日の疲れをお湯につかって癒やしたい人、はたまた週末はサウナで整えたい人などなど。お風呂のスタイルは、人の好みやライフスタイルによってさまざまですが、おうちで長風呂をしたいときは「半身浴」がおすすめです。
半身浴と聞くと、美容効果を期待する人も多いはず。しかし実際は半身浴にどのような効果を期待できるのでしょうか。また、全身浴とはどのように違うのでしょうか。自分のコンディションに合わせて、温浴効果を高める入浴方法や入浴時間まで詳しく解説していきます。
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半身浴とは?
お風呂の入り方のひとつとして挙げられる「半身浴」。肩までつかる「全身浴」と違って、バスタブの中に座った状態で、みぞおち程度まで体をお湯につけて入浴する方法を指します。
半身浴(温浴)で期待できる効果とメリット
元々は体を清潔に保つための生活習慣である「お風呂」ですが、お湯につかると美容や健康につながる温浴効果があります。その健康効果をもたらすのが、「温熱作用」、「水圧作用」、「浮力作用」というお風呂がもつ3つの作用です。
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お風呂が持つ3つの作用 | |||
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温熱作用 | 水圧作用 | 浮力作用 | |
概要 | 体が温められて、0.5℃~1.0℃程度、体温が上昇する | 湯船にためたお湯の水深に比例して体は水の圧力を受ける | 水の中にある体は体積に比例して水から浮かぶ力を受ける |
効果 | ・疲労回復 ・新陳代謝の活発化 ・安眠効果 |
・むくみ改善 | ・リラックス |
これらはお湯につかることで作用するものなので、残念ながら、体の表面にお湯を当てるだけのシャワーでは実感しにくいと考えられています。ではこれらの作用によってどのような温浴効果が得られるのでしょうか。
効果(1)疲労回復&新陳代謝の活発化
温熱作用で体が温められると、体表面近くの血管が温められて広がり、血流がスムーズになります。血液は体を巡りながら、呼吸から取り込まれた酸素や食事から得た栄養分を細胞へと運び、そして不要な老廃物や疲労物質、二酸化炭素を細胞から回収しています。血流が良くなると新陳代謝が活発になるので、疲れがとれやすく、体がすっきりしたように感じられます。
効果(2)安眠
お風呂につかった日は、ぐっすり眠れると感じる人も多いのではないでしょうか。人は、体の温度が下がると眠気を感じやすくなります。お風呂につかると温熱作用によって体温が一時的に上昇し、入浴後1~2時間もたつと体温が下がるため、そのタイミングでベッドにもぐりこめば良い睡眠につながります。また、お風呂で副交感神経に切替わってリラックス状態になることも、安眠できるもうひとつの理由です。
効果(3)むくみ改善
温浴は、日中の立ち仕事などによる足のむくみ改善にも効果的です。水圧作用は水の深さに比例するので、下半身のほうがより締め付けられます。すると下半身にたまった血液やリンパ液などを上半身へと押し戻そうとするため、温熱作用による血流改善も相まって、むくみが改善されるのです。
効果(4)リラックス
普段、私たちの体重を支えているのは、全身に張り巡らされた筋肉です。お湯につかると、筋肉に代わってお湯の浮力が体重を支えてくれるため、全身浴の場合、50kgの体重の人ならば水中では5kgと、1/10程度の重さになります。筋肉は力を入れる必要がなくなるので、緊張がゆるみ、体は意識せずともリラックスします。
メリット
半身浴を選ぶ最大のメリットは、「体に負担がかからない」点です。これまでご紹介した3つの作用はさまざまな効果を体にもたらしますが、体に負荷も与えてしまいます。浴槽につかりながらゆっくり読書をしたい、今夜はぐっすり寝たいなど、リラックスを目的に入浴したい人には、体を休めることができる半身浴がおすすめです。
半身浴のやり方
では半身浴でより高い温浴効果を得るには、どのように入浴すればよいのでしょうか。知っておくと便利なポイントをご紹介します。
おすすめの入浴手順
なにげなく入っているお風呂ですが、髪や体を洗う順序、バスタブにつかるタイミングなどを変えると、温浴効果を高め、きちんと汚れを落とすことができます。おすすめの入浴手順はこちらです。
髪や体を洗う前に体を温めておくと、余分な皮脂や汚れが柔らかくなって落としやすくなります。そのため、本格的に半身浴をする前に5分程度の短い時間で良いので、湯船につかりましょう。入る前には下半身にかけ湯をするのを忘れないようにしてくださいね。半身浴は、38℃から40℃程度のぬるま湯で20分程度がおすすめです。半身浴だけだと肩が冷えるということがあります。その場合は、最後にお湯を足して全身浴にするのも良いでしょう。
入浴後は、浴室内で体を拭き、ボディケアまで済ませてしまうと保温でき、肌の保湿効果アップにつながります。顔のスキンケアも浴室から出たら、なるべく10分以内に済ませるようにしましょう。入浴による美肌ケアについては後ほど詳しく解説します。
半身浴の際に準備するもの
長めにお湯につかる半身浴では、以下のような準備をすると、より入浴時間を楽しむことができます。
・入浴前後の水分補給
入浴では大量の汗をかくため、脱水症状にならないようにきちんと水分補給をしましょう。一気に飲むよりも、入浴30分前くらいから少量ずつ水分をとると、効率的に水分が体に浸透します。浴室にペットボトルなどで水分を持ち込み、半身浴中にも水分補給をするのもおすすめです。しっかり水分をとっておくと、老廃物の排出も良くなります。また、入浴後もコップ1杯分の水分補給を忘れずに。
・下半身にかけ湯
バスタブに入る前には下半身にかけ湯をして、体をお湯の温度に慣らしてから入浴しましょう。特に冬場はヒートショック(※)の予防になります。またこの際に肩からお湯をかけてしまうと、半身浴中に濡れた上半身が冷えてしまうため、お湯をかけるのはつかる部分までにするのがポイントです。
- ヒートショック:急激な温度変化によって、血圧が大きく変動して起こる健康被害。冬場に寒い脱衣所から急に温かいお湯につかると起こることがある。高齢者に多い。
・半身浴中の肩掛け用タオル
半身浴では下半身しかお湯につからないので、体が温まるまでは上半身が寒く感じることがあります。風邪をひかないように、肩に掛けられるような乾いたタオルなどを用意しておくと良いでしょう。浴室暖房があれば、浴室を十分に温めてから入浴しましょう。
・バスタブの半分は蓋をする
半身浴は湯量が少ない分、気温が低い秋冬などはお湯が早く冷めてしまいます。少しでもお湯の温度を保ち、温浴効果を高めるためにも、バスタブの半分は蓋をして湯気を逃がさないようにしましょう。
・入浴剤で温浴効果を高める
温浴効果を高めるには入浴剤の力を借りるのも手です。入浴剤は配合されている成分によって効果が異なるので、気になったものを取り入れてみましょう。ほかにも、洗面器にお湯を張ってアロマオイルを数滴垂らしたり、アロマキャンドルを灯したりして、香りを楽しみながらリラックスするのもおすすめです(アロマオイルを浴槽に入れると体に直接付着し肌荒れの原因になることがあるので注意しましょう)。
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種類 | 概要 |
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無機塩類系入浴剤 | 硫酸ナトリウムなど、入浴剤の成分が皮膚の表面に膜を形成して、身体の熱の放散を防ぐ。入浴後の保温効果を高めて、湯冷めしにくくなる |
炭酸ガス系入浴剤 | 湯に溶けた炭酸ガスが皮膚から吸収され、直接血管へ働きかけて血管を拡張する。全身の新陳代謝が促進され、疲れや痛みなどを緩和する |
薬用植物系入浴剤 | トウキ、トウガラシには血行促進効果があるなど生薬に含まれる成分が働く。香りによるリラックス効果も |
酵素系入浴剤 | タンパク質分解酵素、パパイン、パンクレアチンなどの酵素が含まれる。皮膚に無理な刺激を与えず、体を清浄にすることで入浴効果を高める |
清涼系入浴剤 | I-メントールなどによって、入浴後にひんやりと清涼感を覚える |
スキンケア系入浴剤 | セラミドやスクワランなどの保湿成分が入浴中に皮膚に吸着・浸透して、スキンケアを行う。入浴後はしっとり、すべすべ肌になる |
半身浴に最適な温度
リラックス効果を求める半身浴には、ぬるめの38℃から40℃程度の温度がおすすめです。ぬるめのお湯は副交感神経を刺激するので、血圧は下がり、脈も落ち着き、心身ともにリラックスした状態になります。
反対に、42℃以上の熱いお湯は交感神経を刺激してしまうので、注意しましょう。交感神経にスイッチが入ると、血圧が上がり、脈が速まるなどして緊張・興奮状態になります。朝、目覚めのシャワーで頭をシャキッとさせたいとき、熱いお湯は効果的ですが、1日の疲れをとるには逆効果なので、気をつけましょう。
半身浴におすすめの時間は何分?頻度は?
ぬるま湯での半身浴は、20分程度の入浴時間がおすすめです。全身浴と同じ温浴効果を得ることができます。顔が汗ばんできたら、体が十分に温まったサインなのでバスタブからあがるか、体を洗うなどしてクールダウンしましょう。
夏場はクーラーを使用しているため室内と外との温度差で自律神経が不規則になりがちで、冬場は寒さでつい体に力が入ってしまうので、1日をリセットするにはお湯につかるのが効果的です。毎日シャワーばかりでは温浴効果を期待できないため、時間に余裕があれば、どの季節でもできるだけお湯につかって入浴することを意識しましょう。
肌を健やかに保つ入浴方法は?
バスタブにつかりながらの読書や動画鑑賞が好きな人は、肌の乾燥に注意です。肌のうるおいを保ち、健やかな状態に保つためには、長風呂を避けたほうが良いでしょう。
皮膚には体を外部の有害な物質から守るために、皮脂や角層がバリアを張ってくれています。適度にお湯につかると皮膚の毛穴が開いて、表面の汚れを落とすことができますが、長風呂をすると余分な皮脂や角層内の保湿成分「セラミド」が流出してしまいます。バリアを失うと水分が蒸発しやすくなるため、肌はうるおうどころか乾燥が進みます。そのため、肌の健康を保つためにも20分程度の入浴時間がおすすめです。半身浴は全身浴と比べて下半身を長くお湯につかりますので、下半身の乾燥が気になる場合は、保湿成分の入ったスキンケア系の入浴剤を使ってみましょう。
お風呂上りは、できれば10分以内に化粧水や乳液などで肌をケアしましょう。お風呂からあがった直後はしっとりとした肌でも、なにもケアをしなければ、10分後には入浴前と同じ皮膚水分量まで下がり、30分もすると入浴前よりも水分量が低くなってしまうので注意しましょう。
半身浴をするうえでNGなことは?
半身浴、全身浴にかかわらず、入浴前に飲酒するのはNGです。お湯につかって血流が良くなると、アルコールの回りも良くなり、酔いが加速してしまいます。また、利尿効果もあるので状況によっては脱水症状を起こしてしまう可能性もあります。きちんと酔いがさめてからお風呂に入りましょう。
半身浴と全身浴に効果の違いは?
全身浴とは、肩までしっかりとつかる入浴方法です。半身浴との効果の違いを見ていきましょう。
半身浴と全身浴の効果とは
半身浴と全身浴では以下の表のような違いがあります。
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半身浴 | 全身浴 | |
---|---|---|
入浴方法 | みぞおちまでお湯につかる | 肩までお湯につかる |
特徴 | 体に負担をかけずに、温浴効果を得ることができるが、効果を得るのに時間がかかる | 効率的に温浴効果を得ることができるが、体にかかる負荷が大きい |
おすすめの温度 | 38℃~40℃ | 40℃ |
おすすめの入浴時間 | 20分程度 | 10分程度 |
おすすめの人 | ・心臓や呼吸機能が低下している人 ・妊婦さん ・全身浴だと息苦しく感じる人 ・長風呂を楽しみたい人 |
・体調に問題がない人 ・短時間で温浴効果を得たい人 |
お湯につかることで得られる温浴効果は、実は全身浴と半身浴でそこまで違いがありません。ただし、お湯につかる体の面積が広い全身浴のほうが、効率的に温浴効果を得ることができるといえます。つまり半身浴で温浴効果を得るには、全身浴よりも倍の入浴時間をかける必要があります。
一方で、全身温かいお湯につかると、血圧の上昇や水圧による内臓の圧迫などで、人によっては体に負荷がかかっているように感じる場合があります。お湯につかっていると息苦しさや動悸を感じるような人は、半身浴を選ぶと良いでしょう。体にかかる水圧が少ない分、体に負担をかけずに長めに入浴できる方法として注目されています。
毎日同じ入浴方法を選ぶのではなく、お風呂でゆっくりリラックスしたいときは半身浴を、体の疲れやコリをほぐしたいときは全身浴を、というように目的やその人の状況次第で入浴方法を変えると良いでしょう。
まとめ
副交感神経を高めて、リラックス効果を期待できる半身浴。お湯の温度や入浴時間に気をつけて温浴効果を高めれば、明日の活力につながります。自分の体調と相談しながら、バスタイムを楽しんでください。
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