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不妊治療の助成金はいつまでもらえる?助成金制度と保険適用の違いや、経過措置なども解説
監修:續恵美子
ファイナンシャルプランナー
女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」認定ライター。
ファイナンシャルプランナー〈CFP®〉。
生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。
夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。
国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」(2015年6月実施)によると子どもを望んでいるにもかかわらず、子どもに恵まれない夫婦は5.5組に1組いるとされています。
不妊治療を受ける夫婦は年々増加傾向にありますが、高額な治療費による経済的負担を理由に諦めざるを得ない夫婦も少なくありません。
そこで少子化対策の1つとして、厚生労働省は2022年4月に体外受精や人工授精といった基本的な不妊治療をすべて保険適用としました。従来の助成金制度と比べ対象となる治療法が増え、利用しやすくなっています。助成金から保険適用へと移行となるため、経過措置はありますが、基本的に助成金は受けられなくなります。
この記事では、助成金制度と保険適用の違いについて詳しく解説します。不妊治療を考えている方や治療中の方は、ぜひ参考にしてください。
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不妊治療の助成金制度とは
不妊治療の助成金制度とは、不妊治療を受ける夫婦の経済的負担を軽減するため、お住まいの自治体から高額な医療費の一部を助成してもらえる制度で「特定治療支援事業」と呼ばれています。
不妊治療と一口にいってもさまざまな種類がありますが、特定治療支援事業の対象となるのは「特定不妊治療」に分類される「体外受精」と「顕微授精」になり、以下の要件を満たす方が対象です。
- 特定不妊治療以外の治療法で妊娠が難しいと判断された夫婦
- 妻の年齢が治療開始の初日に43歳未満
妻の年齢が43歳以上の場合、助成の対象となりません。法律婚の夫婦だけでなく事実婚関係にある夫婦も助成金制度の対象です。
治療開始の初日とは、採卵準備のための投薬開始日もしくは、体外受精または顕微授精により作られた受精胚による凍結胚移植を行うための投薬開始日です。自然周期で排卵を行う場合は、投薬前の卵胞の発育モニターやホルモン検査などを実施した日が治療開始日となります。
不妊治療を行った場合に受け取れる助成金には、以下のような条件があります。
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初めて不妊治療を 開始する際の妻の年齢 |
助成回数 | 助成金の上限 |
---|---|---|
40歳未満 | 1子につき6回まで | 1回30万円 |
40歳以上43歳未満 | 1子につき3回まで | 1回30万円 |
受け取れる助成金は、体外受精・顕微授精1回あたり最大30万円です。助成金は、妻の年齢によって受け取れる回数が定められていて、初めて不妊治療を開始する妻の年齢が40歳未満の場合は通算6回まで、40歳以上43歳未満の場合は通算3回まで、子1人ごとに受け取れます。
ただし、採卵を伴わない凍結胚移植や、採卵したが卵子が得られず中止した場合、受け取れる助成金は1回あたり10万円です。この場合でも通算回数にカウントされます。
また、男性不妊治療を行った場合も助成の対象です。精子を精巣または精巣上体から採取するための手術を行った場合、30万円を上限として助成金を受け取れます。
不妊治療の保険適用後は助成金が受けられない?
2022年4月から「一般不妊治療」と「生殖補助医療」が保険適用となりました。助成金制度から保険適用に移行されるため、2022年4月からは「一般不妊治療」と「生殖補助医療」では基本的に助成金は受け取れません。
ただし、スムーズに移行できるよう経過措置として、特定の条件を満たすと助成金を受け取れる制度があります。不妊治療助成金の経過措置についての詳しい内容は後述します。
不妊治療の保険適用と助成金制度の違い
2022年4月から体外受精や人工授精といった基本的な不妊治療はすべて保険適用となりました。そこで気になるのが、従来の助成金との違いではないでしょうか。以下で対象となる治療や年齢、適用回数、婚姻関係の違いについて比較していきます。
保険適用の対象となる治療
保険適用となる治療は「一般不妊治療」と「生殖補助医療」の2種類です。一般不妊治療は「タイミング法」「人工授精」などが含まれ、生殖補助医療は「体外受精」「顕微授精」が該当します。助成金の対象は「体外受精」「顕微授精」のみだったので、保険適用の方が対象となる治療の幅が広がったといえます。
第三者の精子や卵子などを用いた生殖補助医療は、保険適用となりません。具体的には「第三者の精子による人工授精(AID)」「第三者の卵子・胚提供」「代理懐胎」が該当します。
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保険適用 | 助成金 | |
---|---|---|
タイミング法 | 〇 | × |
人工授精 | 〇 | × |
体外受精 | 〇 | 〇 |
顕微授精 | 〇 | 〇 |
第三者の精子による人工授精 | × | × |
第三者の卵子・胚提供 | × | × |
代理懐胎 | × | × |
対象年齢と適用回数
助成金と保険適用の対象者と適用回数は同じで、初めて不妊治療を開始する妻の年齢が40歳未満なら、1子につき6回まで、初めて不妊治療を開始する妻の年齢が40歳以上43歳未満の場合は、1子につき3回まで保険が適用されます。
初めて不妊治療を 開始する際の妻の年齢 |
保険適用回数 |
---|---|
40歳未満 | 1子につき6回まで |
40歳以上43歳未満 | 1子につき3回まで |
また、経過措置期間として2022年4月2日(土)から同年9月30日(金)までの間に43歳の誕生日を迎える方が同期間中に治療を開始した場合、1回に限り治療(採卵~胚移植までの一連の治療)を保険診療で受けることが可能です。経過措置期間中に40歳の誕生日を迎える人は、回数制限6回を上限として保険が適用されます。
過去の治療実績や、助成金の受取実績は保険適用回数に加味されません。そのため、保険適用のみの回数がカウントされます。
婚姻関係の条件
婚姻関係についても助成金制度と保険適用の条件に違いはありません。事実婚の場合でも保険適用の対象です。ただし、受診する医療機関に事実婚関係について確認されたり、書類の提出を求められたりする場合があります。
不妊治療助成金の経過措置について
不妊治療の保険適用により基本的には受け取れない助成金ですが、条件を満たすと経過措置が適用されます。対象期間や対象者の条件、対象となる治療、いつまでに申請すべきかなど、詳しく確認しておきましょう。
経過措置の対象期間と申請期限
2022年3月31日(木)以前に治療開始かつ2022年4月1日(金)以降治療終了の年度をまたぐ場合は、経過措置として治療「1回のみ」助成対象となります。2022年3月31日(木)までに治療が終了している場合、従来の助成金制度が適用されます。
申請期限は2023年3月31日(金)まで。ただし、2023年1月から3月の間に治療が終了した場合は、2023年4月30日(日)まで申請可能です。
対象者の条件
経過措置の対象者は、以下3つの条件に該当する人です。
- 治療開始日から申請日までに夫婦である(事実婚含む)
- 「1回の治療」の開始日における妻の年齢が43歳未満である
- 申請する治療が2022年3月31日(木)までに指定を受けた医療機関で行った治療である
対象となる治療
経過措置の対象となる治療は、以下の2種類です。
- 2022年3月31日(木)以前が「治療開始日」である「治療ステージA、B、D、E、F」の治療
- 2022年3月31日(木)以前に凍結した胚を移植した「治療ステージC」の治療
治療ステージA | 新鮮胚移植を実施 |
治療ステージB | 凍結胚移植を実施 |
治療ステージC | 以前凍結した胚を解凍して胚移植を実施 |
治療ステージD | 体調不良により治療のめどが立たず終了 |
治療ステージE | 受精できず(胚の分割停止、変性、多精子受精などの異常により中止) |
治療ステージF | 採卵したが卵が得られないもしくは、状態のよい卵が得られないため中止 |
助成回数と助成金額
助成回数は夫婦1組につき1回まで(事実婚を含む)。ただし、従来の助成制度で上限に達していない場合に限られます。
助成対象は2023年3月31日(金)までにかかった治療費のみです。助成金額は上記の治療ステージごとに上限が決まっています。
治療ステージA、B、D、E | 30万円 |
治療ステージC、F | 10万円 |
男性不妊治療を行った場合 | 上記に加えて30万円 |
申請方法
申請には従来の特定不妊治療費助成事業と同じ書類を提出します。申請に必要な以下2種類の書類は、お住まいの自治体の公式サイトからダウンロードしてください。
- 特定不妊治療費助成申請書
- 特定不妊治療費助成事業受診等証明書
不妊治療は医療費控除も活用できる
2022年4月からスタートした不妊治療への保険適用では、医療機関の窓口で支払う負担額が治療費の3割になります。さらに、不妊治療にかかる費用は原則として医療費控除の対象です。ただし、医療費控除の条件は年間で発生した医療費が10万円以上の場合です。
- 不妊治療費用から助成金を差し引いた金額が10万円を超えていなければ、医療費控除の対象にはならないのでご注意ください。
- その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額となります。
各自治体の不妊治療助成制度を確認し、保険適用を検討しよう
高額な費用がかかる不妊治療。不妊治療を受ける夫婦の経済的支援として、2022年4月より基本的な不妊治療はすべて保険適用となりました。妻の年齢によって保険適用にならなかったり回数の制限があったりしますが、医療機関の窓口で支払う金額を減らしてくれるのが魅力です。
助成金制度から保険適用へと移行していきますが、各自治体によっては独自の不妊治療補助制度を実施している場合があります。お住まいの自治体の公式サイトで詳しい情報をチェックし、活用できる制度がないか確認してみましょう。
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