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医療費控除の計算方法は?いくら戻るかをシミュレーションで解説します
ファイナンシャルプランナー
監修:金子賢司
CFP®資格保有。東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信中。
1年間にかかった医療費を確定申告すると、所得税の還付が受けられます(これが「医療費控除」といわれるものです)。聞いたことはあっても、「計算が難しいのでは…?」と、少し面倒に思っていませんか。医療費控除による還付金額は、もしかしたら大きな金額になるかもしれませんよ。
この記事を読めば医療費控除の計算方法がわかり、自分はいくら戻るのかを把握することができます。収入金額、年間医療費別の計算事例も紹介しているので、還付金額の目安も参考にしてみてください。
- INDEX
医療費控除とは

医療費控除とは本人、または本人の配偶者やそのほかの親族のために利用できる所得控除のひとつです。医療費控除を利用することで、所得税の還付を受けることができる可能性があります。
医療費控除の適用要件
医療費控除の対象となるためには、申請する医療費が以下の適用要件を満たしている必要があります。
- 対象期間
- 対象者
- 対象金額
医療費控除の対象期間と対象者
医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費が対象となります。
また、医療費控除の対象者は、納税者本人、納税者と生計を一にする配偶者やそのほかの親族のために支払った医療費も対象です。「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要件とするものではなく、余暇(仕事や学校の休日など)は生活を共にしている、生活費や学費などの送金が行われていれば一般的には生計を一にすると見なされます。
医療費控除の対象金額
医療費控除は以下の計算式で計算をします。医療費控除額は最高200万円です。
【医療費控除の計算式】
医療費控除額=実際に支払った医療費の合計額-「①」-「②」
① 保険金などで補填された金額
例)出産育児一時金、健康保険などで支給される高額療養費、民間生命保険の医療保険の入院費給付金や手術給付金など
①において、保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きます。引ききれない金額が生じた場合であっても、ほかの医療費からは差し引きません。
② 10万円(所得合計金額が200万円までの方は、「所得合計金額×5%」)
②において、医療費控除額は課税所得が200万円未満の場合は、総所得額の5%、200万円以上の場合は10万円が引かれます。「所得税率」については、後ほど詳しく解説します。
医療費控除でいくら戻るのか?

医療費控除が利用できると、どれくらい所得税の還付を受けられるのでしょうか?医療費控除額の実際の計算手順を見ていきましょう。
医療費控除額算出手順
医療費控除額は、次のような流れで算出します。
Step1. 1年間の医療費を計算
まずは、自分の医療費控除の明細書や医療費控除対象者となる家族の領収書を集め、1月1日から12月31日の1年間の医療費合計を計算します。
Step2. 医療費控除額の算出
前述の計算式をもとに、医療費控除額を計算します。
仮に、年間の医療費が100万円だった場合の医療費控除額を、所得合計金額200万円以上と200万円未満のケースで計算してみましょう。
なお、医療保険の給付金が20万円支払われたとします。
【年間医療費100万円の場合の医療費控除額】
横にスライドしてください
所得合計金額 (課税所得額) |
計算式 (年間医療費-給付金など-10万円または所得の5%) |
医療費控除額 |
---|---|---|
300万円 | 100万円-20万円-10万円 | 70万円 |
150万円 | 100万円-20万円-(150万円×5%) | 72万5,000円 |
Step3. 所得税率の確認
以下の所得税率をもとに、実際の還付額を計算します。
【所得税の速算表】
横にスライドしてください
所得合計金額(課税所得額) | 所得税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上 330万円未満 | 10% | 9万7,500円 |
330万円以上 695万円未満 | 20% | 42万7,500円 |
695万円以上 900万円未満 | 23% | 63万6,000円 |
900万円以上 1,800万円未満 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円以上 4,000万円未満 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
- 出典:国税庁HP(2022年現在)
- 課税所得額は1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額です。
- 2013年から2037年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付することとなります。
上記の表より、所得合計金額150万円の場合の税率は5%、300万円の場合は10%であることがわかります。
Step4. 還付金額を計算
それぞれの税率で還付金額を計算します。医療費控除額に適用される所得税率を乗じると(掛けると)還付金額が計算できます。
【還付金額】
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所得合計金額 (課税所得額) |
計算式 (医療費控除額×所得税率) |
還付金額 |
---|---|---|
300万円 | 70万円×10% | 7万円 |
150万円 | 72万5,000円×5% | 3万6,250円 |
還付金額は、医療費控除額が大きくなる、もしくは、所得合計金額が高くなる(一般的に年収が高いといわれる方)ほど、大きくなる傾向があります。
医療費控除の計算をシミュレーション

いくつかのパターンで医療費控除額、還付金額をシミュレーションしてみましょう。
【パターン1】所得合計金額の高いケースと比較
- 年間の医療費が200万円
- 医療保険の給付金が20万円支払われた場合
- 所得合計金額が「2,000万円・300万円・150万円」で比較
【医療費控除額】
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所得合計金額 | 計算式 | 医療費控除額 |
---|---|---|
2,000万円 | 200万円-20万円-10万円 | 170万円 |
300万円 | 200万円-20万円-10万円 | 170万円 |
150万円 | 200万円-20万円-(150万円×5%) | 172万5,000円 |
【還付金額】
横にスライドしてください
所得合計金額 | 計算式 | 還付金額 |
---|---|---|
2,000万円 | 170万円×40% | 68万円 |
300万円 | 170万円×10% | 17万円 |
150万円 | 172万5,000円×5% | 8万6,250円 |
このケースでは、所得合計金額が高い(一般的に高収入といわれる)方ほど、所得税率が高いので還付金額は大きくなる傾向があることがわかります。
【パターン2】医療費が少ないケースで比較
- 年間の医療費が10万円
- 医療保険の給付金がない場合
- 所得合計金額が「300万円・150万円」で比較
【医療費控除額】
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所得合計金額 | 計算式 | 医療費控除額 |
---|---|---|
300万円 | 10万円-10万円 | 0円 |
150万円 | 10万円-(150万円×5%) | 2万5,000円 |
【還付金額】
横にスライドしてください
所得合計金額 | 計算式 | 還付金額 |
---|---|---|
300万円 | 0万円×10% | 0円 |
150万円 | 2万5,000円×5% | 1,250円 |
このケースでは、所得合計金額300万円の方は、医療費控除額は0円なので、還付金も0円になりました。
一方、200万円未満の方は、「医療費控除額=実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填された金額-(所得合計金額×5%)」で計算するので、還付金額が発生しています。
【パターン3】同じ所得合計金額で医療費が異なるケースを比較
- 所得合計金額は3人とも300万円
- 医療保険などの給付金がない場合
- 年間の医療費が「200万円・100万円・50万円」で比較
【医療費控除額】
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医療費 | 計算式 | 医療費控除額 |
---|---|---|
200万円 | 200万円-10万円 | 190万円 |
100万円 | 100万円-10万円 | 90万円 |
50万円 | 50万円-10万円 | 40万円 |
【還付金額】
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医療費 | 計算式 | 還付金額 |
---|---|---|
200万円 | 190万円×10% | 19万円 |
100万円 | 90万円×10% | 9万円 |
50万円 | 40万円×10% | 4万円 |
同じ所得合計金額では、医療費が増えれば医療費控除額も増えるので還付金額も増えます。
まとめ

所得税の還付金額は、医療費が増えると医療費控除額も増えるので増加します。また同じ医療費であれば、高収入の方ほど大きくなる傾向があります。
自分の医療費はさほど多くなくても、配偶者や親族の分も要件を満たせば医療費控除の対象になるため、大きな還付金になるかもしれません。今回ご紹介した医療費控除や還付金額の計算方法を参考に、自分はいくら戻るのかを実際に計算してみてはいかがでしょうか?
- 本記事は、公開日時点での情報です。