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確定申告の医療費控除とは?その対象や申請方法についてわかりやすく解説
監修:續恵美子
ファイナンシャルプランナー
女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」認定ライター。
ファイナンシャルプランナー〈CFP®〉。
生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。
夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。
「医療費は確定申告をすれば還付を受けられる」と聞いたことはあっても、自分で確定申告をすることが難しく感じる方もいるかもしれません。しかし、医療費控除は簡単なうえ、税務署に出向くことなく、郵送やインターネット(パソコンおよびスマートフォン)を使った申請も可能です。
この記事を読めば、医療費控除のしくみや対象、申請方法がわかります。医療費控除は5年分さかのぼって申請できるので、過去に面倒で申告していなかったという方も間に合うかもしれませんよ。
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確定申告の医療費控除とは?
医療費控除とはご本人、またはご本人の配偶者やそのほかの親族のために支払った医療費が、一定額を超える場合に利用できる所得控除のひとつです。医療費控除が利用できれば、確定申告をすることで所得税の還付を受けられる可能性があります。
医療費控除の対象
医療費控除は自分だけではなく、配偶者やそのほかの親族の医療費も対象になる場合があります。医療費控除の対象者のほか、医療費控除の対象期間、対象となる医療費についても解説します。
医療費控除の対象期間
医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費が対象となります。未払いの医療費がある場合は、支払った年が医療費控除の対象です。
医療費控除の対象者
医療費控除の対象者は、同居していなくても対象となるケースがあります。医療費控除の対象となるのはどのような人なのか、以下で紹介します。
・対象家族の範囲は?
医療費控除は、納税者本人または、納税者と「生計を共にする」配偶者やそのほか親族のために支払った医療費が対象となります。
なお、「生計を共にする」とは、必ずしも同居が要件ではありません。勤務、修学、療養などで別居していても、余暇(仕事や学校の休日など)では生活を共にしている、あるいは、生活費や学費、療養費などの送金が行われている場合は、生計を共にしているとみなされます。
また、明らかにお互いが独立した生活をしていると認められない限り、親族が同一の家屋で日常生活を送っていれば、生計を共にするものとして取り扱われます。
・共働き夫婦の場合の申告方法
共働き夫婦でお互いに所得があるとき、医療費を合算して夫婦どちらでも申告をすることができます。
日本の所得税は、所得が高いほうが適用される税率が高くなります。共働き夫婦の場合、医療費を合計して支払った医療費から、医療保険などで補てんされた分を引いた金額が10万円を超えるときは、所得の高い方の控除で申請するとお得になる可能性があります。
一方、共働き夫婦の医療費を合計して、支払った医療費から保険金などで補てんされた分を引いた金額が10万円に満たないとき、所得合計金額が200万円を超えてない方が申告をすれば、「(支払った医療費-医療保険などで補てんされた分)-(所得合計金額×5%)」で計算した医療費控除額を申告できます。
・対象となる金額条件
医療費控除の上限は200万円です。
- 共働き夫婦のいずれかが医療費控除上限の200万円に達している場合は、合算をしないほうがいいケース。
また、費用によっては医療費控除の対象とならないものがあるので、次に紹介します。
医療費控除の対象になる費用
医療費控除の対象になる費用には、主に以下のようなものがあります。
- 医師・歯科医師による治療費・入院費
- 医師の送迎費
- 治療や療養に必要な医薬品の購入費
- 医師などの診療を受けるための通院費(自家用車で通院する場合のガソリン代・駐車代金などは除く)
- 入院時の食事代
- 介護保険の対象となる介護費
- はり師、きゅう師、柔道整復師による施術費(疲れを癒やす、体調を整えるなど治療に直接関係ないものを除く)
- 診療や治療に通常必要と考えられる、コルセットや補聴器などの医療器具の購入費やレンタル料
- 妊娠と診断されてからの定期検診・検査・通院費
- 出産で入院する場合のタクシー代
- 年齢や目的から必要と認められる歯科矯正費用
医師や歯科医師による治療費・入院費、入院時の食事代や通院費も医療費控除の対象となるほか、妊娠の定期検診や出産後の検診費用、不妊症の治療費や、人工授精の費用も医療費控除の対象になります。また、医療機関で支払った治療費や薬代は保険外診療でも医療費控除の対象です。
歯の治療については、インプラントも対象となり、金、ポーセレン(セラミック)など歯の治療材料として一般的に使用されているものであれば、これらを用いた歯の治療費は保険外診療でも医療費控除の対象になります。
なお、交通費に関しては遠方の病院に通院した場合、その病院である必然性の説明がつかないときは医療費控除の対象になりません。同じように、実家で出産するための帰省時の交通費や、タクシーによる通院は緊急性などが認められないと申請することができないので注意しましょう。
医療費控除の対象にならない費用
医療費控除の対象にならない費用には、主に以下のようなものがあります。
- 美容や容姿を変えるための費用(ほくろ除去など)
- 食事療法を行った場合の食品購入費
- 医師や病院のナースセンターへの贈り物
- 付き添った親族の食事代
- 自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車代金
- 健康診断や人間ドックの費用
- 自分で希望したときの差額ベッド代
- メガネやコンタクトの購入代金(医師の治療を受けるため直接必要なものは除く)
基本的に美容整形を含む、美容や容姿を変えるための費用や、近視や遠視矯正を目的としたメガネやコンタクトの購入費は医療費控除の対象となりません。
また、付き添いがいる場合、家政婦などの付添人の食事代は医療費控除の対象になりますが、親族が付き添った場合の食事代は対象になりません。
医療費控除の計算方法
医療費控除の次の計算式で計算をし、最大200万円まで所得控除ができます。
【医療費控除の計算式】
医療費控除額=「実際に支払った医療費の合計額」-「①」-「②」
①保険金などで補てんされた金額
例)出産育児一時金、高額療養費、民間生命保険の医療保険の入院給付金や手術給付金など
②10万円(所得合計金額が200万円までの方は、所得合計金額×5%)
【計算例】
- 所得合計金額 300万円
- 支払った医療費合計額 30万円
- 医療保険で受け取った給付金 15万円
30万円-15万円-10万円=5万円 医療費控除額は5万円
医療費控除の申請方法
会社にお勤めの方でも、医療費控除を受けるためには確定申告をする必要があります。医療費控除の申請方法の流れを見ていきましょう。
医療費控除の申請手順
Step1:まず医療費控除を受けられるか確認
医療費控除の対象となる家族の「医療費のお知らせ」や領収書を集めて、支払った医療費合計額から、医療保険で受け取った給付金が10万円(所得合計金額が200万円までの方は、所得合計金額×5%)を超えていて、医療費控除が利用できるか確認します。
Step2:医療費控除額と還付額を計算
医療費のお知らせや領収書をもとに、医療費控除額と還付額を計算します。医療費控除額の計算例は先述したとおりです。還付額の計算例は、以下のようになります。
【還付額の計算例】
・所得合計金額300万円、医療費控除額5万円の場合
5万円×10%(※)=5,000円 医療保険控除による還付額は5,000円
(※)所得合計金額300万円の場合の所得税率は10%
Step3:確定申告書と医療費控除の明細書作成
医療費控除を受けるためには、「医療費控除の明細書」を所得税の確定申告書に添付をして、管轄の税務署に提出する必要があります。
なお、健康保険組合などが発行する、「医療費のお知らせ」がある場合、「医療費控除の明細書」の記入を簡略化(省略)できます。「医療費控除の明細書」の代わりに、「医療費のお知らせ」を添付します。
Step4:確定申告書と医療費控除の明細書の提出
作成した確定申告書と「医療費控除の明細書」を、申告期間である2月16日~3月15日の間に、所轄の税務署に提出します。
Step5:還付金の受け取り
確定申告から約1ヵ月~1ヵ月半後に預貯金口座へのお振込みによる方法か、ゆうちょ銀行または郵便局の窓口で受け取ることができます。
医療費控除の申請に必要な書類
医療費控除の申請に必要な書類は、以下のとおりです。2017年より、医療費の領収書の提出が不要になった代わりに「医療費控除の明細書」の添付が必要になりました。
ただし、領収書は自宅で5年間保管が必要で、税務署から求められたときは、提示または、提出が必要です。医療費の領収書も必ず保管しておきましょう。
【医療費控除の申請に必要な書類】
- 確定申告書
- 医療費控除の明細書
- 医療費の領収書(提出の必要はないが、5年間の保管が必要)
- 健康保険の医療費のお知らせ
- 給与所得の源泉徴収票
医療費控除申請書類の書き方
次に、医療費控除申請書類の書き方について解説します。
ここでは「医療費控除の明細書」、「確定申告書」の記入例を紹介するので、①~⑦の数字と合わせてチェックしてみてください。
【医療費控除の明細書の書き方】
① 医療費控除の明細書に医療費控除を受ける方の住所、氏名を記入します。
② 医療費通知(医療費のお知らせ)に関する事項を記入します。
③ 医療費通知以外に記載された医療費がある場合は、以下の明細を記入します。
- 医療を受けた方の氏名
- 医療費を支払った医療機関の名称
- 医療費の区分(診療や治療・医薬品の購入・介護保険サービスなど)にチェック
- 支払った医療費の金額
- 生命保険や社会保険などで補てんされた金額
⑤ ④を転載し、差引金額を記入します。
⑥ 所得金額の合計額欄には、「給与所得の源泉徴収票」の「給与所得控除後の金額」を記入します(以下の源泉徴収票の「B」にあたる金額です)。
⑦ 差引金額から、10万円(所得合計金額が200万円までの方は、所得合計金額×5%)を引いた金額が最終的な医療費控除額となります。
【給与所得の源泉徴収票の例】
続いて、「給与所得の源泉徴収票」を参考に、確定申告書の書き方を解説します。上のA~Dの金額を確定申告書のどの位置に記入すればよいかが分かると簡単なので、ぜひ参考にしてみてください。
【確定申告書の書き方】
① 確定申告書に住所、マイナンバー(個人番号)、氏名、生年月日を記入します。
② 給与所得の源泉徴収票」の各項目(A~D)を、確定申告書の所定の欄に記入します。
横にスライドしてください
給与所得の源泉徴収票 | 確定申告書の記入先 |
---|---|
A 支払金額 | 収入金額などの給与 |
B 給与所得控除後の金額 | 所得金額の給与(株式の配当などがなければ合計額も同じ金額になります) |
C 所得控除の額の合計額 | 所得から差し引かれる金額(表内の⑬から㉔までの計) |
D 源泉徴収税額 | 税金の計算の源泉徴収税額 |
③ 「医療費控除の明細書」で計算した医療費控除額を、確定申告書の医療費控除欄に記入します。
【確定申告書の書き方】
① 住所と氏名を記入します。
② 所得の内訳欄にある「所得の種類」には、「給与」と記入し、支払者(勤務先)の住所・名称を記入。収入欄には給与所得の源泉徴収票の支払金額(A)、源泉徴収欄には源泉徴収税額(D)の金額をそれぞれ記入します。
③ 扶養親族欄に扶養親族の名前、生年月日、マイナンバーを記入します。
医療費控除申請書類の提出方法
医療費控除の申請書類は、インターネット経由で申告するe-Tax、郵送、税務署窓口への直接提出のいずれかの方法で税務署に提出します。
パソコン作業などに抵抗がない方は、24時間自分の時間で作業ができるe-Taxが便利です。
e-Taxでの申請方法は「マイナンバーカード方式」か「ID・パスワード方式」の2通りから選択できます。
ID・パスワード方式であればマイナンバーカードは不要ですが、税務署で対面による本人確認を行い「ID・パスワード方式の届出」を行うなどの手続きが別途必要となります。またマイナンバーカード方式を利用する場合には、マイナンバーカードの取得が別途必要です。
2023年からマイナンバーカードの読み取り1回で、すぐにe-Taxへログインできるようになりました。またe-Tax(マイナンバーカード方式)連携でスマートフォンからも申請も可能となりました。
申請の詳しい方法については国税庁の動画チャンネルにも掲載されていますので確認してみましょう。
- 別ウィンドウで「YouTube国税庁動画チャンネル」にリンクします。
自宅からパソコンやスマホでできれば税務署に行かずに、印刷や郵送費もかからず、添付書類も不要で3週間程度で還付されるので、とてもスピーディーに手続きができます。
書類による税務署での申告の場合は、確定申告の時期は混雑するものの、細かい不明な点は質問ができます。
郵送の場合は混雑に巻き込まれませんが、印刷する環境が必要になります。
それぞれメリット・デメリットがありますので自分に合った方法を選びましょう。
医療費控除申請の注意事項
医療費控除申請を活用すれば税金の還付を受けられるので、積極的に活用するべき制度ではありますが、注意点もあります。主な注意点について3つ紹介します。
セルフメディケーション税制について
健康の維持増進や病気予防のために一定の取り組みを行っている個人が、自分、また自分の配偶者や親族に対して一定のスイッチOTC(※)を購入するために負担した費用が1万2,000円を超える場合、医療費控除の特例として、所得控除を受けることができます。
- スイッチOTCとは…医療用から転用された医薬品(かぜ薬、胃腸薬、鼻炎用内服薬など。ただし、これらのうちすべての医薬品が対象となるわけではありません)
なお、最大控除額は1万2,000円を引いた後の金額で8万8,000円です。
ただし、セルフメディケーション税制は、通常の医療費控除を併用することができない点に注意が必要です。
【医療費控除と医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)の比較】
・所得合計金額が300万円の方の場合
・スイッチOTCを5万円分購入、病院に支払った医療費が7万円
<医療費控除>
スイッチOTC5万円+医療費7万円=合計12万円
12万円-10万円=医療費控除は2万円
<セルフメディケーション税制>
5万円-1万2,000円=医療費控除は3万8,000円
一見、通常の医療費控除を利用したほうが有利に見えることがありますが、医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらが有利か、実際に計算をしてみることが大切です。
領収書やメモ書きは保存しておく
医療費以外にも、公共交通機関の交通費なども医療費控除の対象になりますが、こうした公共交通機関は領収書が発行されないケースもあります。このように領収書が発行されないものについては、日付や金額、目的、人数などを詳細に記載しておくと領収書の代わりにすることができます。領収書がないからといって、医療費控除を受けられないわけではないので知っておきましょう。
自由診療について
自由診療でもインプラント、金、ポーセレン(セラミック)のような歯の治療材料として一般的に使用されているものであれば、医療費控除の対象となる場合もあります。自由診療を受ける場合、医療費控除が受けられるのか、提供している医療機関や税務署に、事前に確認をしておきましょう。
医療費控除はさかのぼっても申請できる
ここまで読んで、医療費控除をしておけばよかったと感じた方もいるかもしれませんが、医療費控除は過去5年間にさかのぼって申告することができます。厳密には医療費の申告期限は、医療費を使った翌年の1月1日から5年間経過するまでとなっています。2023年に忙しくて医療費控除が申告できなかったという方でも、2028年12月31日(日)までなら申告ができます。
まとめ
医療費控除は確定申告が必要なので難しく感じる方がいるかもしれませんが、基本的には確定申告書と「医療費控除の明細書」を作成して、税務署に提出するだけなのでとても簡単です。
同居ではない家族の医療費や、自由診療の医療費も対象になる可能性があるため、還付される金額は思いのほか大きくなるかもしれません。しかも医療費控除は5年間ならさかのぼって申請することができます。一度、対象になる医療費はないか、医療費について整理をしてみてはいかがでしょうか?
- 本記事は、公開日時点での情報です。