MONEY
子どもがいるなら知っておきたい。今注目される金融教育とは
ファイナンシャルプランナー
監修:原田幸子
株式会社ライフヴェーラ提携FP。ライフイベントや夢を実現するためには、お金の知識とそれをうまく活用する能力が必要です。こんな時代だからこそ、私たち現役世代だけではなく、次世代を生きる子どもたちには、思いどおりの人生を歩んでほしい。そのために、子ども向けの金融教育や教材開発に力を入れています。プライベートでは、幼稚園児の娘と一緒に、お小遣い教育や楽しく学べるオリジナルゲームを開発・実践しています。
保有資格:CFP®、FP技能士1級
生活していくうえで欠かせない「お金」。大人になるとごく自然に現金、クレジットカード、電子マネーを駆使しながら会計し、収支を管理していますが、投資や将来設計のことになるとまだ分からないこともあります。
近年、お金について学ぶ「金融教育」が世界で注目されています。日本でも導入が広がり、2022年度より実施される高校の新学習指導要領では、家庭科の学習内容に資産形成が加わり、話題となりました。今後、学校教育で積極的に拡大されていく「金融教育」とはどういうものなのでしょうか、子どものいる家庭はどのように対応したら良いのでしょうか。詳しく解説します。
- INDEX
こちらもあわせてご覧ください(ゼロから)
金融教育とは
金融教育の支援を行う金融広報中央委員会は、金融教育を「お金や金融のさまざまな働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育」としています。
家庭で親が子どもにお金を教える際、「モノを買うときはお金を支払う」、「代金には消費税がかかる」など、運用面だけにとどまっているかもしれません。しかし金融教育とは、お金について学ぶだけでなく、お金を理解することで個人の自立心を養い、社会との関係性について考えさせるものといえます。
金融教育における2つの目的
金融教育における目的は2つあります。
- 「自立する力」の育成
- 「社会と関わる力」の育成
1. 「自立する力」の育成について
キャッシュレスが進む現代において、子どもたちが現金に触れる機会が減り、お金の重み、価値への実感が薄れているのではないかという懸念があります。お金は有限であることや生活の中で生じるリスクを知らなければ、安易な購買行動や借入に手を出し、生活力の乏しい大人に成長しかねません。
また、お金はなにもせずに得ることはできません。お金を得る=働くことを意味するため、まず子どもたちは、金融教育を通して働くことの意義や楽しさを覚えます。そのうえで将来を見通し、より豊かな生き方を実現するために、主体的に考え、収支のバランスがとれるように工夫し、努力していく態度を身に付けていくのです。このような「自立する力」の育成支援が金融教育の目標として掲げられています。
2. 「社会と関わる力」の育成
個人のお金の使い方だけでなく、金融や経済のしくみを学ぶことで、社会の中の自分を自覚できるようになります。例えば子どもたちが、投資のしくみについて学ぶとします。個人の株式投資はその会社の事業の支援につながり、支援した会社が利益を上げれば、個人にも還元されます。投資ひとつをとってもしくみを学ぶことで、子どもたちは社会に働きかける自分と社会に支えられている自分の双方の存在を知ることができます。
このようにして1人ひとりが社会の一員という認識をもち、よりよい社会を築くにはどうしたら良いか主体的に考えていくことができるように、「社会と関わる力」を育成支援することが、もうひとつの金融教育の目的です。
金融教育は具体的に何を学ぶのか
学校での金融教育は、特定の教科に集約していません。道徳や社会、家庭科など各教科でお金に関する題材を取り上げ、総合的な学習の時間につなげていくことが望ましいとされています。金融広報中央委員会は、子どもたちの年齢と理解レベルに合わせて、身に付けるべき金融知識の目標を、2015年3月に「金融教育プログラム 学校における金融教育の年齢層別目標」に取りまとめ、公表しました。もちろんこの目標はあくまで参考なので、すべての学校がこの目標を達成しているわけではありません。
『学校における金融教育の年齢層別目標』では、13分野とそれらに付随する38の分野目標を掲げています。
(出典)知るぽると金融広報中央委員会「金融教育プログラム 学校における金融教育の年齢層別目標」(「年齢層別の金融教育内容」改訂版)
ここから、さらに小学校低・中・高学年、中学校、高校の5学年に分けて目標を理解レベルに合わせて段階的に細分化し、各目標に合わせた学習プログラムや実践事例が「知るぽると(金融広報中央委員会)」のホームページ内で公表されています。すべての分野目標を小学校低学年から網羅していくのではなく、発達度合いに合わせて設定しているため、経済変動や経済社会の諸課題など、中学校や高校から学び始める分野目標もあります。
段階的な目標設定の具体例として、「A生活設計・家計管理に関する分野」内、「ア 資金管理と意思決定」の「使える資源には限りがある(予算制約)ことを理解する」において小学生のプログラムを見てみましょう。
(出典)知るぽるとホームページより「学校における金融教育の年齢層別目標」を取り上げている指導計画例等」【小学生・低学年~高学年】
低学年ではお金の正しい使い方、節度ある生活態度や自制心といった「個人のお金」を学びますが、中学年になると身近な水を具体例に挙げて、飲料水が組織的・計画的に確保されている様子、お金がかかっていることなど、「社会の中のお金」を学びます。そして高学年には、買物する内容を主体的に選択するなど実生活に結び付く内容へとレベルアップしていきます。
具体例ではプログラムを一例しか挙げていませんが、実際には複数あり、他教科と交えて多角的にその分野目標を学んでいくことが望ましいとされています。
金融教育はいつから始めるのが良い?
学校での金融教育を後押しする中、家庭ではどのように対応したら良いのでしょうか。小学校に上がる前から始めるべきか、そのときはどのような教育方法が適切なのか保護者は悩んでしまいますよね。
結論からいうと、子どもの金融教育はできるだけ早い年齢から始めたほうが良いとされています。しかし理解力や好奇心の発達は子どもによって異なるため、個別のアプローチが必要です。
就学前の幼い子どもに対しては、お金と自然に接することができる環境づくりを心掛けると良いでしょう。お金の価値を理解することは難しいかもしれませんが、大人のまねをしたい時期なので、買物や会計への興味が湧くかもしれません。そんなとき、好きなものを“1つだけ”選ぶ(欲しいものをすべて買うことはできないことを理解する)ことや、モノをお金で買うというシステムを学ぶチャンスとなります。ほかにも、日常の遊びの中で、おもちゃのお金を使って、お店屋さんごっこでモノとお金のやりとりを学んだり、ゲーム感覚で楽しく数字を覚えたり、硬貨と紙幣の違いを学んだりすることもできます。また、親自身が子どもに対して、どのようにお金について伝えたらよいか分からないという場合は、絵本を通して、親子で学びを深めていくこともおすすめです。
子どもが自分でお金を使う機会として「お小遣い」がありますが、渡すタイミングは小学生になってからが多いようです。金額は小学校入学時に大体月額500円からスタートする家庭が多いのですが、目安としては子どもが欲しがっているものにプラスアルファ分をつけた金額がおすすめです。例えば月刊誌なら600円程度なので、毎月700円を渡しましょう。余剰金を貯めるか、都度使い切るかマネジメントは子ども次第ですが、金銭感覚と収支管理を身に付けるきっかけとなります。このとき、お小遣い帳で収支を記録する習慣を作っておくと、自分のお金の使い方を振り返ることができます。
最初のうちは、いきなり月額で渡されても使ってしまうケースが多いので、週に150円など小分けで渡して貯めていく練習をするのも良いですね。
大事なのは、子どもに渡したお小遣いの使い道に、親が口出しをしないことです。子どもが自分で考え、使い、小さな成功や失敗を繰り返しながら、「お金について学ぶ機会」としてお小遣いを渡しましょう。文房具代など必要経費は家計でまかなう、お小遣い以外ではお手伝いなどの労働の対価として支払うなど、家庭内で「お金のルール」をつくって金融教育につなげましょう。子どものお小遣い管理をサポートしながら、気長に見守っていくことが大切です。
日本の金融教育の現状
日本の金融教育導入は今に始まったことではありません。2005年を「金融教育元年」として、学校における金融教育の推進に重点を置いた活動をスタートしました。しかし、金融広報中央委員会が公表した「金融リテラシー調査 2019年」によると、金融教育の経験がある(もしくは、受けたと認識がある)日本人は全体(※)の7.2%で、アメリカの21%と比べるとはるかに低い結果でした。また、全体的には若年層(18~29歳)の理解度が低く、年齢が上がり社会経験を積むにつれて金融知識が蓄積されている傾向であることが判明しました。
(出典)金融広報中央委員会「金融リテラシー調査 2019年」
- 「金融リテラシー調査 2019年」;2019年3月実施、7月に公表。全国の18歳~79歳の個人2万5,000人を対象に、金融に関する知識・判断力(リテラシー)を測る設問の正答率などを調査。設問の約半数が海外機関による同種調査と同じ内容のため、複数国間でリテラシー実態の比較が可能。
アメリカとの比較(共通問題6問の正答率で比較)において、アメリカ全体平均53%に対して日本は47%と6%低いことが判明しました。特に18歳~34歳の若年層において、アメリカ43%、日本34%と10%の開きがあり、リテラシーの差は顕著です。また、イギリス、フランスとの比較(共通問題11問)においても、イギリス62%、フランス74%に対して、日本の正答率は59%でした。
このような状況を打開すべく、10年ぶりに改訂された新学習指導要領において金融教育が一部盛り込まれました。具体的な内容は下の図のとおりで、2021年度から中学校で、2022年度から高校で順次実施される予定です。
(出典)金融庁「車座ふるさとトーク 金融経済教育について」
世界の金融教育の事例
海外においてはどのような金融教育をしているのでしょうか。イギリス、アメリカの2ヵ国では、知識を踏まえたうえでの実践的な金融教育を実施しているようです。
イギリスの事例
金融教育に力を入れているイギリスの学校教育では、小学校低学年からすべての学年において、「金融知識と理解」、「金融スキルと能力」、そして「金融責任」の3つのテーマを段階的かつ継続的に学ぶように学習プログラムが組まれています。
「知識と理解」では貨幣の性格、機能、使用方法など基本的な知識の理解に努めます。そしてその知識を使って、「金融スキルと能力」で日々の家計管理や将来設計のスキルを身に付けます。この2つのテーマを学び、日常生活のさまざまな場面で適切な行動をできるようにすることを目指します。そして最後の「金融責任」において、お金に関する個人の決定が個人だけにとどまらず、家族やコミュニティなどにも影響を及ぼす可能性があることを伝え、個人の社会的責任を自覚するための学習プログラムが設けられています。
アメリカの事例
アメリカでの学校教育は各州の方針によって定められていて、本来、金融教育に関しても同様です。しかし、金融教育においてはNPO法人「ジャンプスタート(Jump$tart)」が中心となって普及活動を進めてきました。
ジャンプスタートが広めた金融教育は「パーソナル・ファイナンス(個人資産)教育」です。幼児期から高校卒業時までに身に付けるべき金融知識として定めた「ナショナル・スタンダード(National Standards)(2017年、第4版)」には「支出と貯蓄」、「信用と債務」、「雇用と収入」、「投資」、「リスク管理と保険」、「金融上の意思決定」の6つの学習カテゴリーが含まれています。例えば「投資」においては、高校卒業時には「富を築き、ファイナンシャルゴールを達成するにはどうすればよいか説明できる」レベルまで到達することをゴールとして掲げています。
また、アメリカでは各州で教育内容は異なりますが、ゲームを通じて個人のお金の計画や管理を学ぶことができる無料教材が数多くあるようです。小さい頃から金融を身近に感じられる環境整備がされています。
三井住友カードの取り組み
三井住友カードでは、全国の小学校・中学校・高校・大学などで、お金やクレジットカードをはじめとしたキャッシュレスの種類やしくみ、使い方に関する授業をおこなっています。取り組み内容についてはこちらをご覧ください。
まとめ
お金を通じて、社会のしくみを学び、社会に生きる自分たちの姿を想像できるようになる金融教育。子どもたちが成長して自立した生活を送ることができるように、学校だけでなく家庭でも意識して、できるところから金融教育を取り入れてみませんか。
- 本記事は、公開日時点での情報です。