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出産手当金とは?計算方法や申請時期をわかりやすく教えます!
監修:白浜 仁子
ファイナンシャルプランナー
fpフェアリンク株式会社 代表取締役。ファイナンシャルプランナーCFP®。1級ファイナンシャルプランニング技能士。元銀行員。結婚・妊活後、専業主婦の期間を経て2008年より独立系FPとして活動を始める。家計管理、資産運用、生命保険、住宅ローン、相続などライフプラン全般について多方面からサポートできるのが強み。西日本新聞マネー情報紙“オーエン”にマンガになって登場するほか、講演、トークショー、執筆など幅広く従事。
ベビーベッドやベビーカー、オムツ、退院時の赤ちゃんの衣類など、赤ちゃんを迎えるためには、なにかと準備にお金がかかるものです。しかし産休に入れば収入が何ヵ月かストップしてしまうので、産後の生活費を心配する妊婦さんもいるのではないでしょうか。
そんなときに頼りたいのが、「出産手当金」という給付制度です。働いている妊婦さんなら、勤め先で加入している健康保険に申請できますが、一体いくら受け取ることができるのでしょうか。そこで今回は「出産手当金」の計算方法や、申請時期などについて詳しく解説します。
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出産手当金とは
「出産手当金」は、妊娠した女性が出産のために勤め先を休んだ際に、ご本人や家族が安定して生活を送ることができるように支払われる手当金です。なぜこのような給付制度が存在するのでしょうか。また、誰でも受け取ることができるのでしょうか。
出産手当金はどのような制度?
出産手当金は、受け取るためにいくつか条件があるものの、基本的に、勤め先で健康保険に加入している女性であれば受け取ることができる給付金です。女性は、産前6週間(42日)と産後8週間(56日)の休暇を取得する権利を有すると、労働基準法の第65条に規定されています。しかし産前産後休業(以下、産休)中は労働に従事しないため、事業主側に給与の支払い義務がありません。つまり、女性は産休中、無給となってしまうことが大半です。
そこで設けられたのが、「出産手当金」です。産休中の女性がお金のことを心配せずに安心して休養できるように、休業中の生活費を一部保障する制度として生まれました。もちろん、女性本人が休む必要がないと感じている場合は、出産直前まで通常どおりに働くこともできます。その場合は、産後休業分の手当金のみ申請することになります。
出産育児一時金とは違うの?
出産時に申請できる、もうひとつの給付制度として「出産育児一時金」があります。出産手当金と出産育児一時金では、給付目的や申請先や受け取る金額がそれぞれ異なるので注意しましょう。
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出産手当金 | 出産育児一時金 | |
給付目的 |
産休中の生活保障を目的とする | 出産にかかる費用の負担軽減を目的とする |
申請先 |
妊婦本人が加入している勤め先の健康保険組合、全国健康保険協会(協会けんぽ)、共済組合などに申請 | 妊婦本人が加入している勤め先の健康保険組合、協会けんぽ、共済組合など、または国民健康保険に申請。扶養家族として夫の勤め先の健康保険に加入している場合は「家族出産育児一時金」として申請も可能 |
給付金額 |
被保険者(妊婦本人)の給与額と実際の出産日によって変わる | 子1人につき48万8,000円+加算額1万2,000円=総額50万円(産科医療補償制度に加入していない分娩(ぶんべん)機関で出産された場合、妊娠12週(85日)以上22週未満の出産・死産などの場合は48万8,000円)。多胎児の場合は子の数に応じた支給額となる (2023年4月1日(土)改定) |
また大きな違いとして、出産育児一時金は被保険者の扶養家族が出産する場合、「家族出産育児一時金」として申請できます。申請先、給付金額は「出産育児一時金」と同じです。
なお、「出産育児一時金」は2023年4月1日(土)に改定され、金額が表のように変更になっています。ただし2023年3月31日(金)までに出産されている方は改定前の金額が適用されますので、子1人あたり42万円(産科医療補償制度対象の場合)または40万8,000円が支給されることになります。詳しくは申請先の窓口に確認してください。
また申請できる期間は、出産翌日から2年以内です。期間内に申請しないと受け付けてもらえなくなりますので、早めに申請しておきましょう。
また、そのほかにも「育児休業給付金」が受け取れる場合もあります。育児休業給付金についてはこちらの記事をご確認ください。
出産手当金のメリットは?
出産手当金を受け取るメリットは、なんといっても経済的な不安を軽減できる点です。
ほかにも産休中、つまり出産手当金を受け取る期間は、健康保険・厚生年金保険の保険料が免除されます。厳密には、産休開始月から職場復帰予定日が属する月の前月までが免除期間として定められています。免除期間中も、保障をそのまま受けることができるうえ、保険料を納めた期間としてカウントされるため、年金の加入実績にも影響を与えません。
なお、自営業やフリーランスといった国民年金第1号被保険者が妊婦の場合、一般に出産手当金は受け取れず、健康保険も免除されませんが、出産予定日または出産日が属する月の前月から4ヵ月間の国民年金保険料は免除されます(多胎妊娠の場合は、出産予定日または出産日が属する月の3ヵ月前から6ヵ月間)。この免除期間も、保険料を納付したものとしてカウントされるため、老齢基礎年金の受給額に反映されます。
出産手当金がもらえる条件
働く妊婦さんにとって、助かる出産手当金ですが、残念ながら誰でも受け取れるわけではありません。では、どのような条件をクリアすれば対象となるのでしょうか。
出産手当金の対象となる3つの条件
以下の3つを満たしている人であれば、出産手当金を受け取ることができます。
1)勤務先の健康保険に加入していること(被保険者であること)
2)妊娠4ヵ月以降の出産であること
3)出産のために休業していること
1)勤務先の健康保険に加入していること(被保険者であること)
妊婦本人が被保険者として勤務先の健康保険組合、協会けんぽ、共済組合などに加入している会社員、団体職員、公務員であることが必要です。正社員だけでなく、パートやアルバイトの人でも対象となります。ただし、夫が被保険者であっても、被扶養者となっている専業主婦には付与されません。
なお、公務員はしくみが異なる部分もありますので、今回は会社員を前提として解説します。
2)妊娠4ヵ月以降の出産であること
健康保険でいう「出産」とは妊娠4ヵ月(85日)以上を経過した後の出産、流産・死産・人工妊娠中絶などを指します。つまり、85日未満の流産の際に休業した場合は給付の対象とならないということです。
3)出産のために休業していること
原則として産前産後休業で給与を受け取っていないことが、給付金を受け取る条件です。産休中に給与の支払いがあったとしても、その給与の日額が出産手当金の日額よりも少ない場合は、出産手当金と給与の差額分が支給されます。
- 出産手当金は退職後でも適用される?
退職すると一般的に、勤め先で加入していた健康保険被保険者資格を失います。しかし、以下の条件を満たせば、すでに退職をしている人でも出産手当金を受け取ることができます。
- 退職前、継続して1年以上被保険者だった
- 退職日に出産手当金の支給を受けているか、退職日が産前42日(多胎妊娠は98日)の間で出勤をしていないこと
つまり、退職まで1年以上続けて勤務していて、かつ、退職日に産休を開始していれば、出産手当金を受け取ることができます。
出産手当金の対象とならないケースは?
出産手当金は、勤務先の健康保険に加入している女性で、出産のために休業している人が受け取ることができる給付金です。しかし、以下のようなケースは対象となりません。
1)国民健康保険の被保険者である
2)健康保険の被保険者ではない(扶養家族である)
3)健康保険の任意継続の被保険者
4)産休中に出産手当金の日額以上の報酬をもらっている
1)国民健康保険の被保険者である
国民健康保険に加入している自営業、フリーランスなどの人は申請できません。ただし、会社で加入している健康保険が国民健康保険組合なら給付される場合があります。
2)健康保険の被保険者ではない(扶養家族である)
出産手当金を受け取る資格があるのは、勤め先の健康保険に加入している被保険者本人です。そのため、被保険者が夫の場合、その扶養家族である妻は対象となりません。
3)健康保険の任意継続の被保険者
退職などの理由によって勤め先の健康保険を抜けて被保険者資格を喪失した場合でも、個人の希望によって一定条件のもと健康保険の加入を継続できます。その「任意継続」で加入している被保険者は、基本的に出産手当金の対象となりません。
4)産休中に出産手当金の日額以上の報酬をもらっている
受給資格があっても勤め先の規定で産休中も給与が支払われ、その金額が出産手当金の額よりも多い場合は、出産手当金を受け取ることができません。特に産休中の有休消化を考えている人は、出産手当金の対象期間外に取得したほうが良いでしょう。
出産手当金の対象期間
出産手当金の対象期間は、労働基準法の第65条に規定された産休期間と一致します。具体的な日数と、対象期間にカウントされる条件を解説します。
出産手当金の対象期間は?
出産手当金は、出産予定日以前42日前(多胎妊娠の場合は98日前)から、出産日の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間に対して支払われます。実際の出産日が予定日よりも遅れた場合は、図のとおりに遅れた日数分も申請することができます(出産日当日は、出産の日以前の期間に含まれます)。
もし産休にプラスして有給休暇を申請する場合は、この出産手当金の対象期間外の日にちで申請したほうが良いでしょう。なぜなら、出産手当金は休業補償なので、給与を受け取る有給休暇の日数分は原則として支給の対象とならないためです。また、基本的に支払われた給与日額が出産手当金の日額よりも少ない場合に差額が支払われますが、有休取得時は、給与の満額に対して出産手当金の日額は実質給与の
2/3程度なので対象となりません。
出産手当金はいつ振り込まれる?
産休中の生活費を一部保障する目的で設けられた出産手当金ですが、通常は産後56日が過ぎてから申請することが大半です。そのため、産休中の生活資金は別途用意する必要があります。出産手当金は一括で指定の口座に振り込まれますが、支払いには申請から1ヵ月~2ヵ月程度かかるので、気長に待ちましょう。早く受け取りたい場合は産前と産後を別々に申請することもできます。
出産手当金の支給額の計算方法
出産手当金で支給される金額は、過去12ヵ月の給料(標準報酬月額)を基準とした日給の2/3に相当する額と定められています。計算式としては下図のようになります。
計算式内の「支給開始日」は、全国健康保険協会では「出産手当金が支給された日」と説明しています。また「標準報酬月額」とは、被保険者が受け取る毎月の給料などの報酬月額を、区切りのよい幅で区分したものです。健康保険・厚生年金保険において、保険料の額や保険給付額を計算する際に使用しています。勤め先の健康保険などのホームページなどで、自身の給与がどの区分にあたるか確認しましょう。
健康保険の加入期間が12ヵ月に達していない場合は、
- 支給開始日が含まれる月以前の、各月の標準報酬月額の平均額
- 健康保険加入者の標準報酬月額の平均額
のいずれか低い額のほうを使用して計算します。
出産手当金の支給申請方法
出産手当金を支給申請するには、勤務先と出産した施設の医師・助産師の協力が必要です。産休に入る前に、勤務先から所定の支給申請書類を受け取るなど、計画的に準備をしておくことが大切です。
一般的な支給申請方法は以下のとおりですが、手続き上不明な点は、勤め先の担当部署に相談してください。
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期間 | 順序 | 手続きの内容 |
---|---|---|
産休前 | 1 | 自分が受給対象者かどうかを確認する |
2 | 勤務先に「出産手当金」を受給したい旨を連絡する | |
3 | 勤務先の健康保険担当窓口にて「健康保険出産手当金支給申請書」(以下、支給申請書)を入手する(加入している健康保険のホームページからもダウンロード可能) | |
4 | 支給申請書に必要事項を記入 | |
産休中・出産入院時 | 5 | 出産後、支給申請書内「医師・助産師記入欄」を担当医師・助産師に記入してもらう(施設によっては文書料がかかる場合もあります) |
産休明け (産後56日経過後) |
6 | 勤務先の健康保険担当に必要書類を提出(「事業主が証明するところ」を記入してもらう) |
7 | 支給申請の1ヵ月~2ヵ月後に指定した口座に一括で振り込まれる |
- 全国健康保険組合(協会けんぽ)「健康保険出産手当金支給申請書」
- 別ウィンドウで「協会けんぽ」のウェブサイトにリンクします。
会社の健康保険組合により、支給申請書の様式や申請方法が異なる場合があります。
また申請時の添付書類に、マイナンバーのコピーや住民票、運転免許証などの身元確認書類のコピーが必要になる場合もあるので、提出時に添付が必要な書類についてはあらかじめ確認し用意しておきましょう。
申請期間は産休開始の翌日から2年以内で、期限を過ぎる毎に受給額が徐々に減額されてしまうので注意しましょう。
産前・産後の2回に分けて申請する場合、1回目の支給申請が産後で、かつ1回目の支給申請時に出産日を確認できれば2回目以降の「医師・助産師記入欄」への記入を省略できます。しかし、勤務先側が記入しなければいけない「事業主が証明するところ」は毎回記入が必要です。
まとめ
実際の支払いは産後にはなりますが、産休中の生活費を保障してくれる出産手当金はとてもありがたいものです。赤ちゃんは成長が早く、洋服や生活用品も必要なものがどんどん変わるため、給付制度を上手に活用して、産後の生活費に役立てましょう。
- 本記事は、公開日時点での情報です。