現金流通高の増加はなぜ?「タンス預金」の削減がキャッシュレス化推進の手がかりに
日本で「現金流通高」は右肩上がりに増えています。とくに1万円札の量が増えており、預金はもちろんのこと、タンス預金が増えていることが推測されています。国の施策もありキャッシュレス化が進んでいるにも関わらず、なぜ使われない現金が増えるのでしょうか。現金流通高とキャッシュレス決済額の推移を確認しつつ、その要因や背景を考察していきましょう。
INDEX
現金流通高の増加と日本銀行の役割
「現金流通高」とは紙幣と硬貨の発行流通高の合計のことを示し、日本銀行(日銀)が保有している現金は除かれますが、金融機関が保有している現金やタンス預金もこれに含まれます。
この現金流通高は年々増加しています。日本生命のシンクタンクである「ニッセイ基礎研究所」が日銀の公表データを基に作成した資料によれば、2000年には60兆円程度だった現金流通高は2016年ごろに100兆円に達し、2020年現在では120兆円規模になっています。
一方、キャッシュレス決済額も年々増加しています。経済産業省が公表したデータによれば、2010年は40兆円弱でしたが、2014年には50兆円、2019年には80兆円を超え、2010年を比べるとすでに2倍以上になっています。
現金流通高の増加には日銀が大きく関わっています。日銀は金融機関を通じて、現金を市中に供給もしくは市中から回収する役割を担っています。そして、現金をどのくらい供給・回収するかは市中の需要によって変わってきます。
つまり、市中において現金の需要が高まると、日銀は現金をより多く供給することになります。現金流通高が現在増加しているということは、市中において現金の需要が高まっていることにほかなりません。
現金流通高においては少額の硬貨は減っている
現金流通高においては、とくに1万円札が増え、少額の硬貨供給量は減っています。言い換えると、1万円札の需要は伸びており、硬貨の需要は減っているということになります。キャッシュレス決済が進展している現状を考えると、キャッシュレス決済消費は少額での決済が大きく伸びているということがわかります。では、なぜ1万円札の需要が伸び、増えているのでしょうか。その理由を考えてみましょう。
1万円札が増えている理由は?
1万円札が増えている理由の1つとして、国民の預貯金、そして「タンス預金」が増えていることが考えられます。
タンス預金は高額紙幣の1万円札で行うのが一般的であり、タンス預金によって市中に1万円札が出回らず、タンスに吸収されてしまうことで、日銀は1万円札を多く供給することになっているのです。
では、なぜタンス預金は増えているのでしょうか。財務省が公表した「通貨に関する実態調査」(2019年度版)を読むと、その理由が浮き彫りになってきます。
この調査では全国の15~79歳の男女1,200人を対象に「自宅で現金を保有する理由」を聞いており、その結果が以下のとおりとなっています。
<自宅で現金を保有する理由>
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理由 | 2019年度 | 2018年度 | 2017年度 |
---|---|---|---|
現金引き出しが面倒・手数料がかかる | 36.3% | 42.5% | 48.5% |
手元に資産があると安心 | 28.7% | 15.3% | 17.3% |
金融機関に預けても利子がつかない | 10.7% | 10.4% | 8.6% |
非常時にクレジットカードや電子マネーは使えなくなる可能性がある | 29.7% | 33.7% | 20.4% |
金融機関に預金するのは不安だから | 0.8% | 1.8% | 1.6% |
その他 | 16.8% | 16.9% | 16.0% |
無回答 | 9.7% | 7.2% | 6.2% |
ここ数年で徐々に比率が増えているのが「手元に資金があると安心」と「金融機関に預けても利子がつかない」という理由です。
近年日本では、景気を上向かせるために金利を低くする「金融緩和政策」を続けています。金利が低くなると銀行から企業や個人がお金を借りる際には有利になりますが、その反面、銀行にお金を預けてもほとんどお金を増やせないことになります。
すなわち、金融緩和政策によって低金利が続いていることで銀行にお金を預ける人が減り、結果的に自宅で現金を保有しておくタンス預金が増えたと考えられるわけです。
「キャッシュレス決済40%」の目標達成に必要なこと
現金流通額が増えている要因の1つに、タンス預金をする人が増加している可能性があるとわかりました。このこと自体は善でも悪でもなく、低金利時代における1つの現象であると言えます。
一方で、このタンス預金で眠っている現金を消費者に積極的に使ってもらうことが、政府が掲げる「2025年までにキャッシュレス比率40%」という目標が達成されるための1つの手がかりとなるのではないでしょうか。
以下の表は、キャッシュレス決済比率を示したものですが、2019年は26.8%にとどまっています。これは同じアジアの韓国や中国と比べても低い数字です。
<キャッシュレス決済比率>
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年 | クレジット カード |
デビット カード |
電子 マネー |
QR コード |
合計 |
---|---|---|---|---|---|
2014年 | 15.4% | 0.15% | 1.3% | - | 16.9% |
2015年 | 16.5% | 0.14% | 1.5% | - | 18.2% |
2016年 | 18.0% | 0.30% | 1.7% | - | 20.0% |
2017年 | 19.2% | 0.37% | 1.7% | - | 21.3% |
2018年 | 21.9% | 0.44% | 1.8% | 0.05% | 24.1% |
2019年 | 24.0% | 0.56% | 1.9% | 0.31% | 26.8% |
消費の促進とキャッシュレスのメリットを感じてもらえる施策・取り組みの重要性
日本政府は2019年10月の消費税率の引き上げに伴い、消費の落ち込みを防ぐとともに、キャッシュレス化を推進するために、キャッシュレス・消費者還元事業を実施しました。その後もマイナンバーカード所有者に対するマイナポイント事業などを実施しています。これらの施策により、キャッシュレス決済はさらに普及し、身近なものになりました。
また、キャッシュレス決済では、セキュリティ面で不安視されることもありますが、実際には、近年急速にセキュリティ面は強化されています。クレジットカードでは不正利用されにくいICチップ化が進んでいたり、指紋や顔などの生体情報による認証が必要なサービスもあり、キャッシュレス決済のセキュリティ強化対策は、今後もさらに向上していき、安心・安全にキャッシュレス決済を利用できるようになるでしょう。
今も増え続けている預貯金、そして「タンス預金」。これをいかにして世の中に出回らせ、消費を促していくのか、政府のキャッシュレス決済サービスの促進策など、今後の動きに注目していきたいところです。
- 本記事は2021年4月現在の情報です。
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