緑豊かな森と植物性モール温泉で癒される「森のスパリゾート 北海道ホテル」
毎週のように名建築宿を泊まり歩きながら「再訪したい」と思えるような宿との出会いは少ない。
その建築を存分に鑑賞し尽くせば、同じ宿に2度泊まるよりも、泊まったことのない、まだ見ぬ宿へとこころは駆られてしまうからだ。
そんな中にあってこのホテルは、以前に訪問した時から、ぜひもう一度と思いつづけていた1軒だった。
INDEX
世界的建築家の樋口裕康氏(象設計集団)が設計した名建築リゾートホテル
帯広駅から車で数分の場所にありながら、周囲を森に囲まれた温泉リゾートホテル。
1995年に新館を設計し、2001年に全館の改装を手がけたのは、象設計集団。
20世紀を代表する巨匠建築家ル・コルビュジエの、孫弟子に当たる建築家集団だ。
沖縄・名護市庁舎の設計で世界的にその名が知られるようになったように、象設計集団は、建つ場所の特徴を建築に映し出すことを得意とする。
アイヌ伝統の文様を模した煉瓦の外壁に、木彫りのフクロウや熊が森の宿ならではの楽しさを添える外観、手摺りや天井に眼が引き寄せられる吹き抜けのロビーなど、見どころは満載だが、中でも私自身が1番惹かれたのは、十字架の背景に広がる緑が眼にまぶしい「森の教会」だった。
ぜひもう一度眺めてみたいと思いつつ、そのきっかけをつくれずにいたところに、1つのニュースが聞こえてきた。
魅力的な設備とサービスを備えた部屋が新しく誕生したという。
ぜひこの機会にと再訪を決めたのだ。
天然素材を生かした寛ぎの客室と癒しのモール温泉
温泉付きのホテルでも、大浴場でしかその湯に浸かれないと、私はそれほど魅力を感じない。大勢のゲストと一緒に入ると、洗い場にいても浴槽にいても、こころの隅が落ち着かないからだ。
この時間なら空いているだろうと、夕食や朝食のピーク時に合わせて訪れても、どうやら似た考えを持つひとはほかにもいるようで、脱衣所で顔を合わせて互いに苦笑いしたりする。
では、部屋のお風呂に温泉がひかれていれば満足かというと、この浴槽が悲しくなるほど狭かったりする。ひとり膝を抱えて内風呂に入るというのも、侘びしいものだ。
新たに誕生した「プレミアム・スパスイート」(602号室)は、床面積が81平方メートル。
ファミリーマンションでいえば、広めの3LDKという広さに、通常は2人がゆったりと宿泊。
ソファをベッドにセットすれば4人まで宿泊可能という部屋だ。
エントランス扉を開いてすぐに、その魅力が眼に飛びこんできた。
ガラス壁の向こうに、広々としたこの部屋専用の露天風呂。
ゆったりとしたシャワースペースと洗い場とは別に、石張りの浴槽が用意され、その大きさは幅が1メートル45センチ、奥行きが1メートル30センチもある。浴槽のヘリに枕木が2つ付いているように、ふたりが足を伸ばしてゆっくりと入れる広さに、掛け流しの湯がとうとうと溢れていた。
屋内には大型ベッドが2台にソファ。さらに昼間足を伸ばして寝ころんでくつろげるデイベッドにダイニングテーブルも揃う。
広々としたテラスにもまたソファが置かれており、どこでくつろぐかを迷うような部屋だ。
十勝・帯広の旬の素材を使った料理と、伝統を継承するシェフによる絶品グルメを楽しむ
実は、ぜひ再訪をと願っていたのは、建築美に魅せられたからだけではない。
このホテルならではの夕食と朝食にも、もう一度、という思いがあった。
前回は夕食に何を食べようかと迷った末に、寿司を選んだのだが、このホテルにはほかにも鉄板焼きステーキ、和会席、ウナギ、天ぷら、洋のフルコースも機会があればぜひという思いが残っていた。
とはいえ再訪してもまた迷うだろうと思っていたところ、「プレミアム・スパスイート」のゲストだけは、各店の看板メニューをアレンジしたフルコース「いいとこどりグルメ5選プラン」メニューが食べられるという。
北寄貝のマリネに白いとうもろこしスープといった十勝産による「前菜盛り合わせ」を羽山シェフ(バードウォッチカフェ)が、「キンキの煮付けと野菜の焚き物」は掘シェフ(六郎)が、「十勝和牛フィレ肉のステーキ」は大野シェフ(コタン)が店内に溜め息が洩れるフランベサービス付きで、「牡丹海老やズワイガニ、帆立の天ぷら」は稲垣シェフ(鶴来)、さらに船越シェフ(春日)による「握り鮨」が出てきて、最後は横溝シェフ(バードウォッチカフェ)の「特製デザート」でしめる。
ホテルのオールスター・シェフがつくりあげた品々を、上西ソムリエによるサービスとセレクトされた御酒とともにひと品ずつ味わう、贅沢なコースだった。
翌朝は4時に撮影をスタート。
建物施設の撮影を終えてから、5時過ぎに洋食レストランに向かう。
奥富ベーカリーシェフ(ブーランジェ)によるパン作りの実演を見学するためだ。
このホテルの再訪をと願っていたもう1つの理由が、奥富シェフの鮮やかな手並みをじっくりと拝見してから、朝食でその自慢のパンを存分に食べたいという思いがあったからだ。
その手のひらには、温度や柔らかさ、そして重量までも正確に測定できるセンサーが付いているのでは——。
ついそんなことを想像してしまうような鮮やかな腕前だった。
北海道らしい大自然を堪能できるのも帯広・十勝の魅力
6時前にホテルから車で30分ほどの公園に移動。この地らしいアクティビティの1つ、熱気球を体験する。
川面を朝靄が敷き詰める幻想的な十勝の風景を空中から楽しんでからホテルに戻り、毎週日曜の朝、子供向けにスタートさせたというホテル敷地内のリス探しの探索に特別に参加させてもらった。
間近に見るリスの素早い動きに、子供たちと一緒に歓声を上げ、お腹を空かせたところで、レストランへ。
クロワッサンに、メロンや苺のデニッシュなど、シェフ自慢のパンとともに、リスが駆け回っていた木々を眺めながらのんびりと朝食を楽しむ。
こんな部屋があったらいいのに。
こんな料理が食べられたらいいのに。
そして、こんなサービスがあったらいいのに。
ゲストの素朴な願いをかなえてくれる名建築宿との再会を喜びつつ、できればまた、と思うような宿泊体験になった。
ここには百年の小さな森とあなたを癒やす天然温泉そして静かな時間があります。
今回のヒトトキ「美しい日本の宿へ」はいかがだったでしょうか。緑豊かな森に囲まれた「森のスパリゾート 北海道ホテル」。北海道らしい大自然を堪能できるのも帯広・十勝の魅力。天然素材を使用した名建築と植物性モール温泉の源泉に十勝の絶品グルメと癒しのヒトトキを堪能してみてはいかがでしょうか。
宿情報
森のスパリゾート 北海道ホテル
住所:〒080-8511 北海道帯広市西7条南19丁目1番地
電話:0155-21-0001
https://www.hokkaidohotel.co.jp/
※別ウィンドウで森のスパリゾート 北海道ホテルのサイトへリンクします。
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稲葉なおと紀行作家・一級建築士
東京工業大学建築学科卒。短編旅行記集『まだ見ぬホテルへ』でデビュー。長編旅行記『遠い宮殿』でJTB紀行文学大賞奨励賞受賞。その後、世界の名建築宿に500軒以上泊まり歩きながら写真集、長編小説、児童文学を次々と発表し活動領域を広げる。テレビ、ラジオにも出演。ノンフィクション『匠たちの名旅館』、小説『0マイル』など著書多数。デビュー20周年記念刊行・長編小説『ホシノカケラ』が話題に。公式サイトでも名建築宿の写真を多数公開中。
http://www.naotoinaba.com
※別ウィンドウで稲葉なおとさんのサイトへリンクします。