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キャッシュレス化が進むために必要な法整備とは?

    キャッシュレス化が進むために必要な法整備とは?

    キャッシュレス化が進むことに対する典型的な不安の一つとして、「個人情報はどうなるのだろうか」というものが挙げられます。事業者側が取得した情報はいったい誰のものなのでしょうか?
    上智大学法科大学院教授であり、金融庁の決済高度化官民推進会議座長でもある森下哲朗氏に話を伺いました。

    INDEX

      キャッシュレス化がもたらす変化とは

      キャッシュレス化が進むと、社会や個人にどのような変化が起こるのでしょうか?

      森下氏:さまざまな変化が起きると予想されますが、最も実感しやすいのは決済の手間がなくなることでしょうね。小銭を数えて出したり、お釣りを受け取ったりすることがなくなれば、小銭を持ち歩く必要もなくなります。

      次の大きな変化として、お金を支払ったことに関する情報が蓄積されることです。現金で支払っている場合は、いつ何にいくら使ったのかということを自分でメモして記録するかレシートを保管しなければなりません。しかし、キャッシュレス決済なら、自動的にさまざまなデータが蓄積されるようになります。その結果、自分がどのようにお金を使ったのか、確認しやすくなりますよね。もちろん、個人だけでなく、事業者側にもたくさんのデータが蓄積されますので、それを活用して新たなサービスや新たな付加価値が生まれてくるでしょう。このことは社会にとってプラスに作用するはずです。

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      現金は財布から減っていくので、お金を使っている実感があるけれども、キャッシュレスになると使いすぎてしまいそうで不安だ、という声も聞かれます。

      森下氏:確かに現金のほうが使った実感を得られやすいですよね。しかし、月末にあれだけ財布に入っていた現金がどうしてこんなに減ってしまったのか、ということを思い出すことは難しくはありませんか。一方、キャッシュレス決済では、決済の記録が残ります。ただ、そのことの利便性を実感できないのは、記録されたデータを個人が簡単に確認できるサービスが活用されていないということかもしれません。

      例えば、家計簿アプリのようなインターフェイスで、クレジットカードの支払い履歴や複数の銀行口座の残高が手軽に確認でき、その場で振込みや送金の指示ができるような個人向けサービスが普及するようになれば、よりキャッシュレスの優れた面を実感できるようになると思います。

      先程、キャッシュレスであれば事業者側にも記録が残るとのことでしたが、事業者とは販売店などを指しているのでしょうか?それとも銀行やクレジットカード会社などのキャッシュレス提供会社を指しているのでしょうか?

      森下氏:両方です。すでに、クレジットカード会社や金融機関などには決済に関する膨大なデータが蓄積されていますが、どこにどのデータを残すのか、誰がどのような情報をどのように活用できるようにするのかについては、色々なアレンジのしかたがあり得ると思います。

      情報に関しては、整理しなければならない問題があります。それは、情報は誰のものか、という問題です。キャッシュレス決済でやり取りされ、生み出されるさまざまな情報は誰のもので、誰がどのような権利を持っているのか、誰がどのように利用できるのか。これを整理していく必要があります。その「誰」には、当然ながら消費者も含まれています。ただ、現状では、店舗が持っている情報に対して消費者にはどのような権利があるのかも明確ではありません。そうしたことが、キャッシュレス決済に対する不安の要因の一つになっているように思います。また、事業者とっても、どこまで情報を活用できるのかが不確かということになります。このあたりを整理することが、キャッシュレス化の利便性を高めるとともに不安を軽減するために必要になってくると考えています。

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      キャッシュレス化推進のカギは情報権限の明確化にあり

      森下さんが座長を務めている決済高度化官民推進会議の役割はどのようなものですか?

      森下氏:決済高度化官民推進会議は、個人だけでなく企業間の決済なども対象としたプロジェクトです。2015年に金融審議会の「決済業務化等の高度化に関するワーキング・グループ」の報告書で提示されたアクションプランをフォローアップするために設置されました。
      このアクションプランは、どちらかというと消費者向けの決済よりも、事業者同士の取引や企業間取引、国際的な資金決済などを改善していこうという取組みの方が主体になっています。しかしその後、キャッシュレス化についても積極的に取り組んでいこうということになり、アクションプランにも加えるべきことがあるのではないか、という意見が出ました。この結果、2019年1月29日の会議において、「金融機関におけるキャッシュレス化の推進」をフォローアップ項目に追加することが決まりました。

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      消費者庁のフィンテックに関する調査で、キャッシュレス化が進むことについて個人情報の流出が不安視されています。この不安を解消するためには、どのようなことができますか?

      森下氏:これは本当に難しい課題ですよね。キャッシュレス化のポイントとしては、コスト削減、利便性の向上に加え、データの活用がありますが、世界には、情報が共有されることについてあまり抵抗感を感じない、少なくとも国民の間に不安感が小さい国と、日本のように自分に関する情報が共有されることに不安を持つ人が多い国があります。

      前者の国では、キャッシュレス化の普及は早いですが、後者ではなかなか進みません。日本でも、キャッシュレスで決済することでポイントが付加されることや、消費税の還元があるなどの特典を設けることで、キャッシュレスが促進されるかもしれません。しかし、根底にある情報の共有に対する不安を緩和できなければ、本格的には加速しないのではないかと考えています。

      これについては、情報を取得する側の事業者が、情報の管理体制や用途についてしっかりと説明していく必要があります。いつの間にか自分の情報が予期せぬ形で利用されていた、ということになると、気味が悪いと思いますよね。ですから、キャッシュレス化で得られた情報については、情報をしっかりと管理する、利用者の利益を損なわないかたちで利用する、利用者と約束した範囲で利用する、といったことを約束し、実行できなければなりません。このことを繰り返し説明し、実践することによって、信頼を獲得していくことが重要だと思います。

      この場合、説明すべき事業者とはどのような事業者を指しますか?

      森下氏:ひとつは、キャッシュレスサービスを提供している事業者です。クレジットカード会社や電子マネーなどの発行会社ですね。銀行預金を活用したキャッシュレスであれば、銀行も含まれます。また、QRコード決済のようなスマートフォンアプリの提供会社も含まれます。このように、キャッシュレスのサービスを提供するさまざまなプレーヤーが、情報の管理や運用について信頼される努力をしていく必要があります。

      ECサイトなどのレコメンド機能を見ると、どこまで利用者の情報が活用されているのだろうかと、驚くことがあります。

      森下氏:利用者の情報が活用されたサービスに対して、「便利だな」と感じるレベルと「気味が悪い」と感じるレベルの境界線があります。これは、利用者ごとに受け取り方が変わってくるでしょうし、だんだん慣れてくることも考えられます。このとき、便利さがかなり上回るようになれば、情報が活用されていることに抵抗がなくなってくるかもしれません。

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      日本のキャッシュレス化が進むために必要なこと

      諸外国に比べて、日本ではキャッシュレスのサービスを提供するプレーヤーの多さが、キャッシュレスの普及を減速させているという意見もあります。

      森下氏:それもあると思いますが、日本の場合は、やはり現金に対する信頼の高さや利便性の高さもあると思います。タクシーでも複数の決済方法が導入されていますが、現金を出せば運転手さんから瞬時にお釣りが返ってきますから、不便を感じません。

      また、現金の偽造が少ないことや、現金を入手しやすいことも要因になるでしょう。海外では、お札が汚かったり偽札が多く信頼できなかったりしますし、ATMも見つけにくい。現金の利便性や信頼性が低い国では、キャッシュレスへの移行が早い傾向がありますね。

      日本の現金の信頼性や利便性が高いことは誇れることで、キャッシュレス化を進めるために劣化させるべきものではありません。むしろ、日本のキャッシュレス化はこの現金の信頼性や利便性に勝てるものでなければなりません。これは、日本のキャッシュレスサービスのクオリティが非常に高くなることを示しています。つまり、現金の足を引っ張るのではなく、現金を超えることを目指すのです。このようなキャッシュレス化を目指したほうが、社会により貢献できますし、チャレンジングでもあり、未来を明るくしますよね。

      キャッシュレス化を推進するにあたり、法整備の面ではどのような展開が考えられますか?

      森下氏:法整備を行うことで、一気にキャッシュレス化が促進されるということはないと思えます。とはいえ、先ほど申し上げたようなキャッシュレスに伴う情報の扱いについては、しっかりと法整備を進める必要はあると考えています。

      また、現在キャッシュレスの手段ごとに適応される法律がバラバラです。銀行振込やクレジットカード、プリペイドカード、そして仮想通貨なども含めて、それぞれに適応される法律が存在します。これらを、もう少しわかりやすいようにする作業が金融庁で進められています。類似の機能が提供され、リスクが同じなのであれば、この機能の提供者が誰であれ、同じルールを適用しようという考えです。例えば、無権限で不正な取引がなされた場合の取り扱いなどについては横断的にルールが整備されることが重要です。

      今後、キャッシュレスはどのように広がるとお考えですか?

      森下氏:日本は日本に合ったキャッシュレス化を目指すことが大切である、と考えています。国によってもキャッシュレス化の姿はさまざまです。それは、キャッシュレス化が人々の生活や社会のあり方に密接に関連するものであるからです。今後、現金が圧倒的な強さを持つ日本ならではの、圧倒的な信頼性と利便性を備えたキャッシュレスサービスが登場してくると思います。その意味では、日本のキャッシュレス化は、利用者にとって、現在よりも快適な社会を提供するものとなるはずであると期待しています。

      森下 哲朗

      森下 哲朗

      上智大学法科大学院教授。1989年、東京大学法学部を卒業し、同年住友銀行に入行後、1999年より上智大学へ。研究対象は、国際取引法、金融法、交渉学。金融庁による決済高度化官民推進会議では、座長を務める。金融庁金融審議会金融制度スタディ・グループ・メンバー。

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