本州最南端の清酒蔵「尾﨑酒造」 世界遺産の地・熊野に根付く誠実なひと滴
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蔵のすぐ裏は、霊場・熊野を流れてきた熊野川である。その数100m先には、世界一の大海原である太平洋が広がっている。熊野川と太平洋が出合う町、新宮市。潮の香りも届く河口部で、「尾﨑酒造」は明治初期から酒造りの湯気を上げ続けてきた。
6代目蔵元の尾﨑征朗さんが言う。
「私どもは、本州最南端であり、熊野地方唯一の酒蔵です。田辺市(和歌山県)から伊勢市(三重県)まで、紀伊半島の南側沿岸部には酒蔵がありません」
生産量は、年間800石(一升瓶換算で約8万本)。そのほとんどが熊野一帯で消費される圧倒的なローカルブランド。新宮市や隣接する那智勝浦町などの飲食店の多くに「尾﨑酒造」の文字がメニューに躍り、熊野三山の1つである熊野速玉大社にも奉酒している。
「この地域唯一の酒蔵ということもあって、かわいがっていただいています。ありがたいことです」(尾﨑さん)
だが、地域唯一の酒蔵というだけでは、消費者はついてこない。実を伴ったひと滴で、地元にしっかり根を張る。
清酒『太平洋 本醸造』が、鑑評会で2年連続最高金賞を受賞
蔵の主力商品は『太平洋』。大吟醸から本醸造、原酒など、幅広いラインナップ。
なかでも『太平洋 本醸造』は、大阪国税局清酒鑑評会で2014年、2015年と2年連続で優秀賞を受賞。『純米酒 太平洋』が、フランス初の日本酒コンクール『2017第1回蔵マスターコンクール』で、プラチナ賞(最高賞)を受賞するなど海外でも高く評価されている。
杜氏として酒造りの舵を握るのは、小林武司さん。能登杜氏の流れを汲み、淡路島や大阪の蔵を経て、尾﨑酒造で6季目を迎えている。
小林さんが尾﨑酒造に取り入れたのが、“山廃仕込み”。現代の酒造りで一般的な醸造法は速醸だが、それに比べ2倍以上の日数が掛かる。しかも、醪の生育状態や温度などに細心の注意を払う必要があり、杜氏の腕が試される酒とも言える。
だが、時間と手間を掛けた結果、複雑かつコシのある酒質となり、蔵と杜氏の個性が出る1杯に育つ。
山廃仕込みの『山廃特別純米酒 太平洋』を含む。米のゆるりとした味わいのあとに、山廃特有の酸がキュッとしめてくれる。柑橘系のニュアンスがあり、刺し身など和食だけでなく、中国料理や洋食でもいけるだろう。
熊野に暮らす人々の声に応え、愛される本当の地酒蔵
小林さんが蔵元の尾﨑さんから酒造りに求められるのは、“熊野らしい酒”。熊野古道から採取した酵母を用いた純米酒『熊野紀行』、那智熊野大社の御神体である那智の滝を仕込み水にする純米酒『那智の滝』、紀州特産の備長炭と熟成させた本格梅酒『備長炭のしらべ』などがある。
清酒のほか、焼酎やリキュール類も製造するなど、生産量800石ながらアイテム数は多い。蔵元の尾﨑さんが苦笑する。
「地元の声に応えていたらね、少しずつ増えてしまって……」
蔵のホームページには、清酒『太平洋』の名前の由来をこう説明してある。
『世界一の大洋の如く、広く大きく清らかに高らかく気宇をもって皆様のご愛飲を心からお願いしたいと言う意を込めたものです』
アイテム数をみれば、太平洋に面した小蔵がどれだけ愛されてきたかがよく分かる。地元の声に応え、地元のための酒を醸す。それが土地に根付いた、本当の地酒蔵の姿ではないだろうか。
酒蔵情報
尾﨑酒造株式会社
住 所:和歌山県新宮市船町3-2-3
電 話:0735-22-2105
主な商品(税込):
「太平洋」大吟醸(720ml・4,320円)、純米吟醸(720ml・3,240円)、本醸造(720ml・1,188円)
純米酒「那智の滝」(500ml・1,296円)
純米酒「熊野紀行」(720ml・1,296円)
梅酒「備長炭のしらべ」(720ml・1,296円)
柚子酒「柚子の早おとめ」(500ml・1,188円)
※記載している価格は取材当時の金額です。
http://ozakisyuzou.jp
※別ウィンドウで尾﨑酒造株式会社のサイトへリンクします。
尾﨑酒造のお酒が楽しめる飲食店
※飲食店の情報に関しましては、直接、尾﨑酒造にお問い合わせください。また、商品は尾﨑酒造のホームページからご購入いただけます。
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