東洋と西洋の世界美を纏ったクラシックホテル「雲仙観光ホテル」

東洋と西洋の世界美を纏ったクラシックホテル「雲仙観光ホテル」

木の温もりに包まれたノスタルジックな名建築

敷地に足を踏み入れた途端に、スイスの高級別荘地を訪れたような錯覚を覚えた。

歴史ある名建築に向けて真っすぐに伸びる石畳の感触。地面に埋め込まれた立方体の自然石、ピンコロ表面の凹凸が靴底を通じて足首にまで伝わる。

雲仙観光ホテル 外観 イメージ

館内は取手や丁番といった金物は照明を見事に反射させ、新しい物に付け替えたように見える。木の柱や梁(はり)、手摺りには大工が手斧(ちょうな)で削り残した柔らかな起伏がある。

その時代ならではの職人技や材料に、眼を寄せるだけでなく、残らず手で触れることができる。それこそが、掃除と維持の行き届いた歴史ある宿ならではの贅沢な宿泊なのだ。

雲仙観光ホテル 重厚感あるロビー イメージ

重厚感ある柱や梁が印象的なロビー。

外国人避暑客向けのリゾートホテルとして昭和10年10月10日に誕生した「雲仙観光ホテル」

ホテルの開業は昭和10年10月10日午前10時。

外国人観光客誘致の国策として良質な温泉に恵まれた地に誕生した、日本を代表する国際観光ホテル。建築界では竹中工務店が設計し施工した第1号ホテルとしても知られる。設計担当の早良(さがら)俊夫は、神戸のジェームス邸などの名邸や、銀行・生保など金融機関の建築で多くの実績を残した。

気品溢れる特別室 イメージ

伝統が生み出した厳かな風格と、趣に満ちた気品。 静謐な佇まいのその空間には、今も昔も変わらぬ特別な時間が流れる特別室。昭和天皇皇后両陛下をはじめ、数々のVIPに愛されてきた雲仙観光ホテルを代表する部屋。

金色に輝く客室ノッカー イメージ

客室の扉にある取手もノッカーも、昨日設置したように金色に輝く。特別室には貴重な照明器具が天井から下がり、昭和初期の内装が大切に受け継がれていた。

歴史あるバー イメージ

昭和10年のホテル創業以来、ずっと時を刻み続けてきた歴史あるバー。

温泉大浴場 イメージ

洋式ホテルに滞在しながら、日本ならではの恵みの雫に身をゆだねる。それは、ここでしか味わうことのできない旅の愉しみかもしれません。

スイスの荘厳な山小屋風の外観。地上3階の各フロアは堂々たる大階段で結ばれ、メインダイニングルーム、バー、図書室、撞球(どうきゅう)室、温泉大浴場等々各施設の内装は、往時の豪華客船を思わせる。平成15年には国の登録有形文化財に登録された。

長崎独特の文化である「和華蘭」を取り入れたフレンチを堪能

館内にドラの音(ね)が鳴り響き、夕食の時刻となった。

メインダイニングの席へ案内された。約200畳に及ぶ吹抜け大空間でのフレンチのフルコース。味はもちろんそのボリュームにも十分に満足して、テーブルクロスの下で膨らんだ鳩尾(みぞおち)を撫でていると、製菓長が歩み寄ってきた。デザートのワゴンサービス。その彩りに、眼と一緒に胃も広がる。全部で8品。

ダイニングルーム イメージ

高い天井と磨かれた木の床が印象的なダイニングルームでは、ドレスアップしたくなる。

フレンチのフルコース イメージ

長崎産の黒毛和牛ロース肉のグリルなど、地元産の新鮮な素材を活かした料理はどれも、味はもちろん見映えにも歴史ある総料理長ならではの演出がある。

赤々とした苺に眼が引かれ、これは、と訊ねた。
「こちらはアーモンドのタルト台にカスタードクリームと季節のフルーツで仕上げております」
「では、こちらは?」
「こちらはベリーのムースです。サクサク食感のスイス製のチョコレートとご一緒にぜひお召し上がりください」
どちらも美味しそうで迷う。やはり作られた方に決めてもらうのがよいだろう。
「製菓長としてのおすすめはどちらですか?」
「それはやはりこちらの、イタリア産のゴルゴンゾーラチーズとドライフルーツを使いました芳醇(ほうじゅん)なベイクドチーズケーキと、こちらの、純米酒の甘酒の香り漂う濃厚なクグロフですね」

ベイクドチーズケーキとクグロフ イメージ

タルトかムース、どちらがおすすめと訊ねたのが、全種類の中からおすすめを返され迷いが膨らんでしまった。眼を泳がせていると、
「すべて召し上がられるお客さまもいらっしゃいますよ」
声も身体も跳ね上がりそうになるのをぐっとこらえ、
「ではせっかくなので、そうしていただけますか」と厳(おごそ)かに返した。

デザートワゴンと製菓長 イラスト

お腹の限界突破してしまった人気のデザートワゴンと製菓長を描いてみた。

デザートは別腹とはいえ、限界を超えてしまったなと思いつつ、クロスの下で再びお腹をさすっていると、総料理長が各ゲストへの挨拶にテーブルを廻り始めた。私の番になり、まずは美味しい料理のお礼を述べてから、ふと浮かんだ質問を口にした
「歴史あるホテルの総料理長が目指すのは、どういう料理なんでしょう」
「会話が弾む料理ですね」迷いなく答えが返る。「見ただけでお客さまの表情が変わって、召し上がったらお味について会話が弾む。そんな料理です」
「なるほど。このパンにしても、オリーブオイルの小皿に浸けてから更に、砕いたナッツの小皿に浸けてという食べ方が美味しくて、もうそれだけで会話が弾みますよね」

オイルのしっとりとした食感にナッツのつぶつぶ食感が加わり独特の美味しさがあった。 「オリーブオイルが苦手なお客さまにはバターも用意しております。せっかくなので、ご用意しますね」

私の返事を待たずに厨房へと足を向けた総料理長は、数分もしないうちに笑顔とともに戻ってきた。どうぞ、と差し出された純白の器の中を見て、思わず感嘆の声が出そうになる。

二輪のバラがかたどられたバター イメージ

バター色のバラが2輪。そう思えるほど繊細にかたどられたバターがふたつ。
「せっかくなので、パンもお持ちしましょうね」
「え? あ——」
私の返事を待たずに再び厨房へと足を向ける総料理長の背を眼で追いながら、私はお腹をもうひと撫でした。

創業時から大切に使いつづけられてきた調度品や照明などのインテリア

プレミアムツイン 室内 イメージ

ウィリアム・モリスの壁紙をアクセントにしたプレミアムツイン。

真鍮製のドアノブ イメージ

真鍮製のドアノブには細かな装飾が施され、輝きを維持するためには毎日の丁寧な手入れが欠かせない。

翌朝4時半。外観撮影の準備をと階段を下りる。撮影と取材に追われる1泊だが、早朝の撮影が終わればようやくホテル自慢の温泉にゆっくりと入れる楽しみが待っている。

エントランス扉の前に制服姿の人影が見える。扉の取手を磨いている。朝の挨拶の声をかけ、定期的に磨かれているのですか、と訊ねる。
「毎日磨かないと駄目なんですよ」
「毎日? 全部ですか?」つい訊き直してしまう。
「1日休みますと黒ずんでしまって、落ちにくくなりますので」

新品に付け替えたのではなかったのだ。
歴史ある宿が、その歴史を誇れるというのはこういうことなのではないか。
そう思いつつ、私はまず、磨き抜かれた金物に向けてシャッターを切った。

※掲載内容は取材時の様子のため、変更となる場合もございます。

文・写真・絵 稲葉なおと

昭和初期の感性を今に伝える伝統と格式

今回の”美しい日本の宿へ”「雲仙観光ホテル」はいかがだったでしょうか。
創業から80余年、当時と変わらない佇まいの建物で、昭和初期のエスプリを味わえる「雲仙観光ホテル」。雲仙の持つ恵みあふれる自然に包まれながら、スローな時間と心に残る上質なおもてなしで、あなたのヒトトキを堪能してみてはいかがでしょうか。

宿情報

雲仙観光ホテル
住所:〒854-0621 長崎県雲仙市小浜町雲仙320番地
電話:0957-73-3263
http://www.unzenkankohotel.com
※別ウィンドウで雲仙観光ホテルのサイトへリンクします。

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PROFILE

稲葉なおと紀行作家・一級建築士

東京工業大学建築学科卒。短編旅行記集『まだ見ぬホテルへ』でデビュー。長編旅行記『遠い宮殿』でJTB紀行文学大賞奨励賞受賞。その後、世界の名建築宿に500軒以上泊まり歩きながら写真集、長編小説、児童文学を次々と発表し活動領域を広げる。テレビ、ラジオにも出演。ノンフィクション『匠たちの名旅館』、小説『0マイル』など著書多数。デビュー20周年記念刊行・長編小説『ホシノカケラ』が話題に。公式サイトでも名建築宿の写真を多数公開中。

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