演出家インタビュー
『エリザベート』
潤色・演出 小池修一郎
『エリザベート』は、1人の皇后の人生、そして“死”を肉体のある存在として描く物語ですが、それを通り魔的にエリザベートを死に至らしめたテロリストに語らせる、とてもユニークな構造の作品。どうとでも視点を変えて観られるように作られている類を見ない物語だからこそ、これだけ長い間上演できているのだと思います。
宝塚と東宝で何度も上演してきていますが、演出するたびに新鮮さがある。私自身、最初は『エリザベート』のミステリアスな側面に惹かれていました。死というものの甘美な魅力を表現することにエネルギーを注いでいましたが、上演を重ねることにより、また演技者の持ち味を生かすことを重視することにより、だんだんと作品に対する印象も変わってきました。
10回目となる今作では、トートを珠城りょう、エリザベートを愛希れいかが演じます。珠城はオーソドックスな二枚目なので、ノーブルなトートになるのでは、と。そんな珠城のトートによって、死が人間に及ぼす影響力が印象に残るような『エリザベート』になると感じています。対する愛希は芸達者な娘役でリアリティをもった女性像も演じてきているので、実在感のある地に足が着いたエリザベートになるのではないでしょうか。必死に生きようとして、さまざまなものにぶつかっていく女性。仕事をもつ現代の女性が共感するようなエリザベート像になるのではと感じます。このコンビならではの特徴がうまく作用して、珠城の持ち味が健全なエネルギッシュさにあったとしても、十分黄泉の帝王として存在し得ると思っています。
だから今作は、そんな2人の満ち引き、引き合いが大変面白い。生きんとするエリザベートに、潮が満ちるように迫ってくるトート。生きるエネルギーを巡る闘いのように見えるのではと想像しています。それは作品が本来もっている構図に近いかもしれません。
フランツ・ヨーゼフは、美弥るりか。フランツは、青年から老年までを演じ、そのなかに人間的な苦悩を描かないといけない難しい役ですが、とても力をつけてきているので、皇帝の大きさをきちんと表現できるのではないかと。最近多かったインパクトのある見た目の役柄ではないからこそ、彼女が培ってきた演技力が際立つと思います。ルキーニの月城かなとは、役にぴったり。芝居もできますし、ギラギラした個性を持ち合わせているので、この発散できる役で一皮剥けるのではと思います。
ルドルフは暁千星と風間柚乃の役替わり。月組のプリンスで、宝塚の王子的な要素をもつ暁が苦悩の皇太子を演じることで、いつもの明るく華やかな雰囲気を抑えて、いかに影を出すのか。彼女の成長過程の危うさがうまく出ると思います。風間は、非常に歌と演技がうまい若手。暁とは太陽と月のような対照的な存在感があるので、まったく印象の異なるルドルフになるのでは、と。トートと深く関わる役なので、珠城と暁という大柄スター同士の絡みはもちろん、負のインパクトをもつ風間のルドルフによって珠城がどうニュアンスを変えていくのか、面白いところだと思います。
いまの月組はとてもユニークな組で、まだ固まっていないのが魅力でもある。『エリザベート』という定番の作品によって、どのように変化を遂げていくか、私自身も楽しみにしています。