演出家インタビュー
『ファントム』
潤色・演出 中村一徳
この作品の魅力は、エリック(ファントム)の苦悩に共感できるところ。そして、彼の純粋さや大きな心、人としての優しさを感じられるところが、お客様に愛されている部分なのかなと思います。そういった作品の骨格は、これまでの3回の上演である程度出来上がったと感じるので、今作では原点に返ってエリックの純粋さや内面を出していければ、と。これまでの3人のエリックはそれぞれに素晴らしかったので、それらをうまく合わせながら、今度はより細かくエリックという人物を作り上げていきたいと思います。
トップスターの望海風斗は、そういった内面のナイーブさを十分に表現できる力の持ち主。これまでのさまざまな舞台を観ていても、情熱的な部分と、少し陰りのある繊細さが両立しているのを感じます。エリックの弱さを表現しても、歌や踊り、芝居のエネルギーは落ちないので、その両方を細やかに作っていけたらいいなと思います。
真彩希帆も夢を抱くクリスティーヌと重なりますし、明るい個性でうまく表してくれるのでは、と。クリスティーヌの過去を深めて、純粋な女性を作って欲しいなと思います。キャリエールは、もっている雰囲気だけで人に安心感や信頼感を与える人でないといけないのですが、彩風咲奈も確かな存在感を彼女の経験と実力とで表現してくれると期待しています。
シャンドン伯爵とショレは、彩凪翔と朝美絢の役替わり。伯爵がどれだけ華やかであるかによって作品の印象も変わりますし、ショレはオペラ座の新支配人としてのギラギラした感じがファントムの葛藤をさらに際立たせてくれるので、2役とも重要な役どころです。カルロッタや団員などの役がきっちりと際立ってくることによって、ファントムの存在をさらに浮き上がらせてくれる。そのあたりは、いまの雪組の勢い、芝居巧者のメンバーがそろう実力とがうまくかみ合ってくると思います。
今作では、舞台セットや映像、衣装などの視覚的な要素を全面的に変えて、場面ごとのファントムの登場の仕方などの演出も一新します。もちろんコンセプトは同じですし、楽曲や場面が増えるわけではありませんが、見た目が変わることによって、印象はかなり違ったものになると思います。この作品は素晴らしい楽曲で構成されたミュージカルですが、そのなかでも望海や真彩らが感情で動けるような“隙間”を作っていきたいな、と。再演ならではの苦しさとともに、新しくしていく部分もあるので、稽古でここはこうしたいというものがたくさん出てくるはず。そうやって試行錯誤しながら、3回の上演で作ってきたものと彼女たちの感性が合わされば、舞台での大きなエネルギーとなるのではないでしょうか。
雪組は何色にも染まれるカラーをもち、芝居巧者のメンバーがそろう組。主要キャスト以外にも新たな役の存在が浮き上がったり、楽曲のまた違った魅力が出てきたりと、『ファントム』の新たな側面が表れてくると思います。