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演出家インタビュー

『A Fairy Taleー青い薔薇の精ー』
作・演出 植田景子

 明日海りおが演じる“薔薇の精”の元になったイメージは、ニジンスキーが踊って有名になった「薔薇の精」というバレエ作品。短い作品なのですが、薔薇の精という非現実の存在が、宝塚歌劇の世界に合うのではないかと、昔から頭の中にありました。ただ人間ではない主役の物語はなかなか難しく、どう料理すればいいのか…と、ずっと眠っていた題材でした。

 ある公演の千秋楽前日、それは花組ではない公演だったのですが、なぜか夢の中に明日海が出て来たんです。翌日の千秋楽にお花屋さんに行った際、すごくきれいなブルーローズが目に入り……。その瞬間に、来年は明日海と仕事をするのかなと感じて、明日海の“青い薔薇の精”が一晩、頭に浮かんでいたんです。そうしたら花組プロデューサーから仕事の依頼があり、明日海のためのオリジナル作品を作ることになったのですが、その時は赤坂ACTシアター公演ということで、大劇場とは違う色合いの作品が良いと考え、ポップで現代的な『ハンナのお花屋さん』を創りました。

 この度退団公演を考えるにあたり、大劇場だったらビジュアル的な華やかさも出せる“青い薔薇の精”が良いのでは、と。明日海はトップ就任後、大劇場だけでも10作目となり、日本物、西洋物、悲劇、喜劇とありとあらゆる役を演じてきました。彼女ならではの題材をと考えたときに、ゼロから作り上げるオリジナリティのある役で、ビジュアル的な美しさを生かしたいと。私自身にとってもハードルが高いものになりますが、明日海のサヨナラ公演ですし、これまで観たことのないものにチャレンジしなければと思いました。

 妖精、精霊と言っても、絵本に出てくるようなステレオタイプのものではありません。ケルト神話や人魚の伝説などもあり、現実世界から一歩外に出たらいるかもしれない存在、人間の想像の産物は山程存在しますが、そういう、心の中に棲んでいる存在というイメージです。ビジュアルも含め、オリジナルの世界観と説得力を持ったキャラクターになればと思っています。

 物語としては、耽美で幻想的な世界から入っていきますが、19世紀の産業革命後の社会が急速に発展したロンドンの中で、人間が精霊から感じるもの、精霊が人間から感じるものとは……というドラマ展開になります。そして最後は、浄化された温かい空気に包まれるところで終わりたい。子供のころに聞いたおとぎ話のような感覚が残る、光に包まれたような優しい幕切れになればと思っています。

 明日海の魅力は、いろいろな色を持っているところ。彼女にしかない魅力もありますし、1つに染まらず、常にチャレンジ精神を持って引き出しを増やしていこうとしている。そこに創作意欲をかき立てられますし、想像力や感性、心で会話しながら、共作していける人です。一緒に仕事をしていてやり甲斐がありますね。
『ハンナのお花屋さん』とはキャラクターも世界観も違いますが、花がテーマなので共通する部分もあります。明日海は、その時はお花を売っていましたが(笑)、今作では花を守る存在。いずれにしても、花とともに生きているような明日海のイメージから発想しました。花や植物を慈しむこと、自然とともに生きること、自然が人間に与えてくれるものなど、明日海自身が生まれ育ったなかで感じてきたことなのではないかと思います。そういった彼女が心に持っているものから生まれた作品です。

 華優希は、とても素直で正直な人。お芝居がストレートに伝わってきて、自身が持つ真っ直ぐさが響いてくる印象があります。今作がトップ娘役としてのお披露目でここからスタートなので、課題を一つひとつ乗り越え、レベルアップしていってほしいです。
 柚香光は、2012年のバウ公演『近松・恋の道行』で浄瑠璃人形の役をやってもらいましたが、その時から人を惹きつける魅力と存在感がありました。身体で想いを伝えられる人であり、それは心に真実があるからだと感じるので、そういう部分を武器に伸びていってほしいです。今作では、薔薇の精エリュと対極にある、現実社会を生きる植物研究家のハーヴィー役。エリュと出会い、最初は戸惑いながらも心と心で近しくなり、共鳴していく重要な役です。彼女が持つ感情豊かで、聡明な部分が、もっと自由に表現できるように成長してほしいです。

 出演者とお客様が幸せな時間を過ごせる公演になるように尽力したいと思いますので、ぜひ劇場に足をお運びいただければと思います。

『シャルム!』
作・演出 稲葉太地

 このレヴューでは、明日海りおの多種多様な姿を網羅して、お客様がお好きなさまざまな明日海の魅力を味わっていただきたいです。なおかつ、宝塚歌劇でしかできない世界、ショーやレヴューでしか味わえないカタルシスを持った作品にしたいと思っています。

 舞台は、パリの地下都市。実際にパリの地下にいまもある、石積みの街を造るためのかつての石切場です。'80年代までは“カタフィル”と呼ばれる地下愛好家たちが入り込んでパーティをしたり、壁面にクリムトや葛飾北斎を模倣した絵が描かれていたり……。現在は立ち入り禁止ですが、文献や映像で見て引き付けられるものがありました。明日海の退団公演の作品を考えるにあたり、元々興味のあった地下都市を舞台にして、地上では出合えないものに出合うという物語をレヴューにしたら、明日海や花組メンバーも活躍できるのではないかと思ったんです。

 若者たちが地下の案内人に誘われて、マンホールを下りていくところから始まり、孔雀をモチーフとしたオープニングを経て、徐々に地下の深みへと落ちていきます。中詰は、地下墓地での舞踏会、最後は地下から光をめざすという流れで展開。衣裳もスーツや軍服、黒エンビなどさまざまで、音楽もクラシックをアレンジしたものから、ジャズアレンジ、タンゴなど、多岐に渡ります。

 明日海とは、ことあるごとに一緒に作品を作ってきました。最後の新人公演『ラストプレイ』、演出助手として参加した『ロミオとジュリエット』、花組に組替えしてきて最初のショー『Mr.Swing!』、トップになって初めてのショー『宝塚幻想曲(タカラヅカ ファンタジア)』。舞浜アンフィシアターでのコンサート『Delight Holiday』。悩みや葛藤もあったと思いますが、その都度どうしたら自分なりの男役ができるのかと突き詰めて考え、実践してきた。そこがとても素晴らしいところだと思いますし、男役にすべてを捧げているのが最大の魅力。常に進化し続けていて、男役や宝塚を本当に愛して大切にしているのだなと感じます。

 華の魅力は、何といっても娘役に必要なかわいらしさ。もちろんそれだけでなく、芯の強さがある。初舞台の時からそうでしたし、花組配属になって最初の『宝塚幻想曲』でも、指摘されたことを翌日にはどうにかしてこようとする根性が感じられました。フレッシュで可憐でかわいいだけでなく、そんな心の強さを出せるような場面も作りたいです。とてもお芝居の上手い人なので、案内人というような通し役をショーの見せ方で表現してもらおうと思っています。
 柚香は、本舞台からウィンクしてくるような“花男”っぷり、人を楽しませ、喜ばせようとするサービス精神、スターとしての在り方にいつも驚かされます。やんちゃキャラが魅力ですが、先日の『花より男子』でも、それに加えて男役としての包容力、母性本能をくすぐるような魅力など、いろいろと持ち合わせている魔性も感じられて、とてもいいな、と。持ち前のバネの利いたダンス力、最近は男役のフォーマルなスタイルで魅せることも着実に身につけていっています。明日海の下で学ぶことが大きかったと思いますが、彼女も日々進化しているところに引き付けられますね。

『宝塚幻想曲』の桜をモチーフにした黒エンビの場面では、明日海がトップになったことを表現したく、また台湾公演もあるので華やかにしたいと、あえて踊り狂う激しいシーンにしました。いつの日か彼女が退団する時に、正調でシンプルな黒エンビのダンス場面を、どなたかが作っていただければいいと、その真逆をいくようなスタートを切ってもらいました。それをまさか、私自身が作れることになるとは……。ですから今作では、男役の美学が詰まった正調な黒エンビのダンスシーンをお届けしようと思っています。いまなら明日海はそれを表現できますし、柚香、瀬戸かずや、水美舞斗ら花組の男役たちもいい表現をするのではと思っています。

 明日海が積み重ねてきた男役芸の集大成、勢いがあって高まっていっている充実期の花組の魅力、個性を深く味わっていただけたらうれしいです。