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千秋楽レポート

 9月30日、三井住友VISAカード シアター『A Fairy Taleー青い薔薇の精ー』三井住友VISAカード シアター『シャルム!』宝塚大劇場公演の千秋楽が行われ、花組トップスター・明日海りおが、憧れ続けた本拠地・宝塚大劇場卒業の時を迎えた。

 公演前、大勢のファンや組子に囲まれて劇場入り。花組生が一丸となって、カサノヴァ風のパフォーマンスで盛り上げた。組子たちの歌に思わず「グッときた」といい、天を仰ぐような場面も。だが公演では、高ぶることなく集中力を発揮、研ぎ澄まされた舞台姿を披露。「お客様に楽しんで、大劇場最後の姿を焼き付けていただきたい」と、舞台人としての真摯な思いに満ちた公演となった。

 公演後は、同時退団する芽吹幸奈、白姫あかり、乙羽映見、城妃美伶のプロフィールが、組長・高翔みず希から読み上げられたのち、「花組トップスターとして上演した作品のナンバーを」と厳選したサヨナラショーの幕が開いた。
 冒頭から『エリザベート』の世界に一瞬で引き込む。5年前のトップお披露目公演時から、さらに深みと厚みを増したトートの歌声。初めてのオリジナルショー『宝塚幻想曲』の、新生花組を象徴した純白の羽根に囲まれるシーンも再現。懐かしさに包まれる。

 続く『カリスタの海に抱かれて』では爽やかに、『新源氏物語』では風雅に歌う。『金色の砂漠』のギィの強い眼差しも甦る。そして『MESSIAHー異聞・天草四郎ー』では組子に囲まれて笑顔を見せ、『EXCITER!!2017』ではノリノリで客席下り。歌い継ぐたびに、雰囲気が一変。同じ衣裳、メイクにも関わらず、周囲の空気までも作品世界に染める表現力は圧巻。まさに明日海にしか演じられなかった役だと、1つひとつの作品が心に刻まれる。

 次期トップスター・柚香光による『Melodiaー熱く美しき旋律ー』の主題歌のあと、水美舞斗、瀬戸かずやとの芝居仕立てで始まった『CASANOVA』は、大勢の娘役とのナンバー。その後の『ポーの一族』が出色。世紀のプレイボーイから、一瞬にして少年のような声色に。柚香と手を繋いで階段を下りる姿は、エドガーとアランそのもの。妹役を演じた華優希との柔らかなデュエットダンスへと続く。『ポーの一族』は、当時の花組メンバーだからこそ実現できた作品だと、改めて実感する。

 退団する4人の娘役が『Santé!!』で華やかにパフォーマンスし、明日海が白地にピンクの花があしらわれた衣裳で再登場。『BEAUTIFUL GARDENー百花繚乱ー』の、明日海の宝塚への思いを歌詞に乗せた楽曲が大劇場に響く。組カラーであるピンク色が似合うトップスターとして大輪の花を咲かせた姿は、感慨ひとしお。客席の涙を誘う。最後は『ハンナのお花屋さん』の楽曲を、全員で披露。ペンライトが煌めくなか、組子1人ひとりの顔を見渡す顔は幸せそうで、充実感に満ちていた。

 サヨナラショーに引き続き、退団者挨拶。明日海りおのプロフィールが読み上げられ、月組配属から間もないバウ公演『なみだ橋えがお橋』から、思い出の舞台写真が次々と映し出される。明日海によるユーモアセンス抜群、人柄を感じさせる素直な解説が、会場の笑いを誘う。

 退団者1人ずつ大階段を下りて挨拶が行われ、いよいよ明日海が姿を現す。衣裳は黒エンビ。「男役にこだわって、愛を持って過ごしてきたので、男役としての制服、正装でお客様にご挨拶できたら」と選んだ。袴は一番最後の日にとっておくという。大階段の中心に立った明日海は、感慨に満ちた表情を浮かべる。「毎日、その日その場所で感じてきた景色だったので、これが最後なんだなぁと。シャッターを押すように、自分のなかで忘れない、と」。後の会見でその時の心情を明かした。

 同期生からの花束を渡すため、雪組トップスター・望海風斗が登場すると客席がどよめく。音楽学校時代から同室で仲を深め、同時期にトップスターを務めて切磋琢磨してきた同志。望海から伝えられた言葉は「生まれ変わってもまた一緒にやろうね」。2人にしかわからない、強い絆を感じさせる。

 繊細なカラーの花束を抱えて挨拶。宝塚歌劇に出会った時のことを振り返りながら、「そんな私がこうしてタカラジェンヌになれただけでも、スーパー、ハイパー、ギガ、メガ……とんでもなく幸せでした」と明日海節で表現。会場が温かな笑顔で満たされる。
「一番の幸せは、こうして花組に来て、大事な大事なみんなと出会い、安心してついていきたい、この人と一緒に舞台がしたいと思ってもらえるような人間になろうと、もがいてこられたこと。みんなの笑顔と頑張る姿に毎日励まされてきた」と言い切った。
 そしてすすり泣きが聞こえる客席に向かい、「固い絆で結ばれたお客様の存在が何よりの原動力になった」とファンへの感謝の気持ちを語った。

 大好きな宝塚大劇場にお礼とお別れを言いたいと切り出し、「宝塚大劇場さん!」と呼びかけた。かわいらしい姿を披露したラインダンスから始まり、命を削るように舞台に没頭し、宝塚の歴史に名を残すトップスターへと成長した明日海を見守り続けてきた劇場。愛おしそうに劇場を見渡しながら、「ここで感じたこと、ここで過ごした時間、そのすべてを一生忘れません。さようなら! 17年間、本当にありがとうございました」と万感の思いをぶつけた。
 宝塚大劇場には思い入れも強く、いつも舞台に向かって声を掛けてきたという。「この空間とずっと会話してきたので、最後に挨拶したかった。舞台が怖い時もあったし、愛、人と人との見えない絆があふれている時もあり、いろいろな時があった」と会見で振り返った。

 カーテンコールは6回に及び、スタンディングオベーションのなか、男前な花組ポーズや即興の歌で沸かせた。そして最後は、緞帳前に1人で登場。「皆様のことをお慕い申し上げております」と話したのち、「これで本当に終わります」といつものようにさっぱりと宣言。“花男”の面目躍如の投げキッスを放って袖に入り、会場は泣き・笑いが入り混ざった。

 手形を披露した会見後は、パレード。スペースが限られるなか、8,000人が集結。最後に登場した袴姿の明日海は、清々しい表情。スモークがたかれ、ペンライトが揺れる花道をゆっくり歩いた。ファンのかけ声を笑顔で見守り、何度もガッツポーズ。「また東京で!」と叫び、白い花で埋まったオープンカーに乗って、大劇場をあとにした。

 自らの寂しさを押さえ込み、東京公演の最後の日まで全うするという、舞台人としての矜持がにじんだ1日。豊かな感受性と冷静さを併せ持つ明日海らしい姿に、最後まで魅了された。東京公演の千秋楽まで、目が離せない。