冠協賛公演コーナー
三井住友カード ミュージカル『アナスタシア』演出家インタビュー

作・演出 稲葉太地
『アナスタシア』は、ロマノフ王朝の末娘・アナスタシアが生きていたという皇女伝説に基づいたミュージカルで、テーマは「ホーム、ラブ、ファミリー」。人と人が交わった先に何があるのか。いまなぜここに生きているのかという、自分の根源を探し求める人たちが描かれています。以前、ニューヨークに行った際、たまたまブロードウェイで観劇した1作が『アナスタシア』でした。当時とても話題になっていた作品でしたし、植田紳爾先生が『彷徨のレクイエム』という作品を書かれたように、宝塚作品に向いた時代背景、テーマでもあるということで観たのですが、まず楽曲が素晴らしかった。グランド・ミュージカルの香りがする作品でありながら、LEDの装置を使い、映像を駆使していて、その対比も面白かったです。また、アナスタシアによく似たアーニャと、詐欺師のディミトリの恋、アーニャを執拗に追い込むグレブという軍人の描かれ方が、主役カップルに対する色濃い2番手に見え、魅力的なミュージカルだと感じました。
宝塚版では、ディミトリが主役。オリジナルスタッフに相談しながらプロローグなどを加え、新曲を書き下ろしていただきました。脚本、作曲、作詞の3人の力、信頼関係で出来上がった大変素晴らしい作品なので、分解することなく、脚本にストレートにディミトリが主となる場面を挿入していく形がいいのかなと思っています。
ディミトリが中心となることで、彼とアーニャの成長が見え、2人が最後に何を手に入れるのか…。物語の“ハッピーエンド感”がより明確になるのではないでしょうか。それに「アナスタシア伝説」というファンタジーが作品の基なので、それが現実味を帯びていくリアリティも感じていただけるのではないかと思います。
目玉は、大劇場を生かしたセット。映像も使いますが、歴史考証に基づいたセットでロマンチックな雰囲気を出したいです。1月にロシアに行ってきたのですが、そのときに感じた色味や「とにかく何もかもがデカい!」という実感も(笑)、反映できたら、と。いまのサンクトペテルブルクは都会で洗練されていますが、ヨーロッパの街並みとは違います。特に、今回描くのはロシア革命後の冬の重い街。アースカラーや茶色、グレー、黒など、生きるためのエネルギーが濃い色味から、2幕のパリでは華やかなパステルカラーの春の街並みとなる。その差も表現していきたいです。
ゆりか(真風)とは、下級生のころから何作も仕事をしてきました。クールで美しいだけでなく、骨太な男役。それに加えて茶目っ気がある。そのギャップが面白いし、ディミトリ役にも生かされると思います。『オーシャンズ11』では大人の貫禄を表現してきた彼女が、どうディミトリを演じるのか。不安定さのある役は久しぶりだと思うので、楽しみです。
1幕では裏社会で人からものを盗んだりして生きるディミトリを、悪く作ってほしいとリクエストしました。それにより、アーニャと出会って彼が変わっていく面白さがより出ると思います。宝塚の男役が演じるディミトリは、こういう感じになるというものを表現してくれると期待しています。
私が娘役に求める最重要なものは、芯の強さ。男役に気持ちを添わせるけれども、娘役が1人で立っていないと男役はかっこよく見えない。まどかちゃん(星風)は、もともとそんな強さを持っているのが、魅力。ロシアの半分以上を歩いて、サンクトペテルブルクまで来たというアーニャにぴったりです。それに最近は、とても大人びてきているので、アーニャの成長も表現してくれるのではと思っています。
キキちゃん(芹香)は、歌声がとても色っぽくなったことが最大の武器。歌に気持ちが入っていくと、得も言われぬゾクッとした瞬間を感じさせてくれる。葛藤する色濃い敵役に、その色気は強みとなります。芝居でもそれを出せる部分があると思うので、楽しみです。
個人的な話になりますが、芝居の演出をするのは本当に久しぶりですし、大劇場で1本立ての芝居を担当するのも初めてなので、息切れしないだろうかと心配しています(笑)。いま演劇界はとても大変な状況ですが、明るく、互いのことを大切に思い合っている宙組の皆とともに、こういう時だからこそ「ホーム、ラブ、ファミリー」をより感じていただける作品をお届けしたいと思っています。