冠協賛公演コーナー

三井住友VISAカード シアター 『元禄バロックロック』『The Fascination!』演出家インタビュー

『The Fascination!』 作・演出 中村一徳

 今作は、柚香さんと星風さんの新トップコンビ誕生と、花組誕生100周年を記念したショーとなります。

 歴代の花組公演を観ると、素晴らしい作品や曲がたくさん。その多くの作品や楽曲のなかから、抜粋してメドレーにしたいと思っています。曲を使用するだけでなく、例えば『ミモザの花』という作品を「ミモザの香りを感じさせる場面」として違う楽曲で表現したり、作品のテイストだけ借りて今風に見せながら、ある特定の作品ということではなく、もっと広くその時代や雰囲気、歴史を感じていただける構成にしたいな、と。100年の歴史があるので、もちろんすべてを網羅するわけにはいきませんが……(笑)。
 柚香さんをはじめとするいまの花組生の魅力をお伝えしたい。新しい場面も、また、過去のシーンでも、これまで築かれてきた歴史を彼女たちが背負うことでそれぞれの意識もより高くなると思いますし、力強く表現してくれると信じています。

 各組の特徴や良さがあり、それぞれ比べられない魅力がありますが、これまでの歴史がつくり上げてきた花組のカラーと、柚香さんをはじめいまの花組生が持っている感性はすごくマッチしている。とはいえ伝統にこだわりすぎず、枠にはまらずに、彼女たちがいまの100%の色を出していったら、それがこれからの新しい歴史になっていくのではと期待しています。

 柚香さんは、ポスター撮影の際も自分の意志で自由にやってくれる面白さがありました。見せ方や立ち居振る舞い、そしてダンスの実力がベースにあって、自由に自分の色が出せる。彼女には納得させられるような個性、感性があるので、これから何が出てくるのか、どんな色でやってくれるのか、私自身も楽しみです。

 星風さんも、素晴らしい実力の持ち主。1人で立ったときと、男役と2人のときとではまったく違う色を見せてくれる。娘役も可憐さやきれいさだけでなく、強さがないと男役と場面をつくれないのですが、彼女にはそれを可能にする力を感じます。
 そんな2人が組むとバランスもとてもいいですし、相乗効果で1+1が3にも4、5にもなる。また違う花が咲き始めているなと感じます。

 水美さんも充実した実力に加え、きっちりと緻密に出来上がってきている印象があります。これまで同様のダイナミックさがありながら、自分なりの色を膨らませていっていると感じます。永久輝さんはいますごく勢いがある。これからさらに経験を積めば、これまで彼女がつくってきたものにさらにプラスアルファされる。そういう感性を持っていると思います。

 4人の個性が化学反応を起こして1つのものをつくったり、まったく違う色合いで競い合っているような感じにもなって、どんどん華やかになっていくだろうな、と。そんな彼女たちのひたむきさ、真面目さ、真摯さが、組を引っ張るエネルギーになっていると感じます。いまの81名の花組生が一番輝くことができ、一番美しい色に染まれる作品になれば、と思っています。

『元禄バロックロック』 作・演出 谷 貴矢

 今作はまず第一に、柚香さん、星風さんの新トップコンビのフレッシュさ、経験豊富さを両方出すために「タイムリープ」という主題が浮かびました。また花組100周年なので花をモチーフにした作品にしたいけれど、花を直接的に使う作品はこれまでに結構あったので、「百花繚乱」「花のお江戸」の元禄時代を舞台にしようと思いました。
 そして元禄時代に起こった有名な出来事といえば、赤穂浪士の討ち入り。それをサイドストーリーにして、タイムリープを組み合わせたら、見たことのない面白いものになるのではと着想しました。あと個人的に、言葉遊びを作品に入れることが多いので、タイムリープ、時計、クロック、元禄、バロック、ロック……と。タイトルが先に決まったくらいでした(笑)。バロックに関しては、ヨーロッパでバロック文化が花開いた時期と元禄時代が重なるのが面白い、日本にそのまま入ってきたらどうだったのかと思っていたので、言葉遊びを含めて加えました。チェンバロを曲に使用したり、壮麗なバロックのイメージをセットで表現したいと思っています。

 元々、歌舞伎が大好きで、『忠臣蔵』も好きです。宝塚歌劇の演出家なので、愛に人一倍アンテナを張って生活しているわけですが(笑)、『忠臣蔵』は単なる復讐譚ではなく、赤穂浪士の1つの愛の形なのかな、と。男女の愛とは違いますが、自分たちの価値観を貫き通すという意味でも。だから愛を求め続ける宝塚歌劇とも通じるものがあって、面白いと感じます。ただ現代の我々からすると、すっと受け入れられない部分もある。そういう現代的な感覚や価値観を、柚香さん演じるクロノスケ、星風さん演じるキラに担ってもらい、いわゆる『忠臣蔵』の価値観と対立するような構造になれば、と。
 実は、『忠臣蔵』をサイドストーリーとして対立軸に置き、「忠臣蔵外伝」として愛の形を幽霊やファンタジー要素を入れて誕生した『四谷怪談』も、着想のヒントとなりました。もちろん今作に幽霊は出てきませんが、令和の『四谷怪談』くらいのつもりで、『忠臣蔵』をサイドストーリーにして愛を描きたいです。

 柚香さんは、荒唐無稽なものにリアリティを添える芝居力、理解力が魅力。漫画原作の作品も演じていますが、そういう作品こそ、舞台をつくり上げる力や芝居力がないと全然リアリティのないものになってしまう。
 私は新しいもの、SF的主題が好きだと思われているかもしれませんが(笑)、それだけでなく「オールド・タカラヅカ」も好きです。例えば、菊田一夫先生が想像力を駆使してつくり上げたファンタジー・インドが描かれた『ダル・レークの恋』。昭和の宝塚は、そんなイマジネーションが素敵な作品がたくさんある。
 今回はオリジナル設定で、そんな荒唐無稽なものにしたいと思っていますが、柚香さんはそこに説得力を持たせてくれる。とても信頼していますし、私自身も楽しみにしています。

 星風さんもいろいろな面を持つ娘役で、かわいらしさや大人っぽさ、神秘性があり、実体はどこに?と刺激されるのに、宝塚の娘役としての品も失っていない。芝居としても柚香さんとの相性抜群ではないかと感じます。
 マイティ(水美)とひとこ(永久輝)は、以前の自分のバウホール作品で重要な役どころで出演してもらっているので、安心感もあり信頼しています。その時のイメージとは違う役をやってもらいたくて、マイティは場がグッと引き締まるケレン味のある悪役で、物語全体の仇を。ひとこは、サイドストーリーの『忠臣蔵』を一番まともにやる役。その骨太なシーンの中心としてドンと存在する役も面白いかな、と。

 ポスター撮影の際、柚香さんに作品概要を説明して小道具をポンと渡しただけで、自然とポーズや雰囲気をつくり始めて、それがまためちゃくちゃ素敵で……。想像以上のポスターの仕上がりで期待していただく声もたくさん届いていますが、そのぶんプレッシャーもあります(笑)。タイムリープなどのファンタジー要素も入りますが、人間ドラマとしてきちんと芝居を構築しながら、生徒とも話し合いながらつくっていきたいです。