冠協賛作品紹介

三井住友VISAカード ミュージカル
『GUYS AND DOLLS』
演出家インタビュー

稲葉太地

 宝塚では4度目の上演となる今作では、新たな上演台本、訳詞、演出で2025年版の『GUYS AND DOLLS』をお届けいたします。オリジナル作品を下訳してもらい、イメージに引っ張られないように宝塚版の上演台本は改めて読まず、映像も初演を一回サラッと観ただけに留め、台本を起こしました。

 台本を書いていて感じたのは、主役であるスカイの出番が実はあまり多くないということ。これまでの宝塚版は演出の酒井澄夫先生、翻訳の青井陽治先生、訳詩の岩谷時子先生をはじめとする諸先輩方が、大地真央さん、紫吹淳さん、北翔海莉さんという3人のスカイをどう見せるか、大変苦労されて作られてきたんだなと、改めて尊敬し直しました。そして、歴代の主演者の方も自分の魅力をスカイに投影させて演じてこられたのだな、と。今回はそれを私とちなつ(鳳月杏)とでやらせていただくと思うと、脈々と受け継がれる宝塚の伝統、その歴史の壮大さを身に沁みて感じているところです。

 それに、この作品はいわゆる “ザ・アメリカンコメディミュージカル”なので、日本人の価値観からすると面白さがわからないところがとても多い。それをいかに面白いと思えるものに変えていくのか、日々苦戦しながらお稽古しています。昨年、ロンドンで新しいバージョンを観たときも会場は大爆笑だったのですが、私としては面白さがわからないところもありました。ただ、観客参加型のイマーシブバージョンで、アリーナにいる観客が街の登場人物となっていて、作品の新たな捉え方についてはとても興味深かったです。

 私自身、2002年の紫吹さん主演作に演出助手で入らせていただいたので、歌詞を結構覚えていまして・・・・・・。その岩谷先生の歌詞が本当に素敵で脳裏に焼き付いてしまっていたので、歌詞を新たに書くことにも苦労しました。ですが、決して過去のものに抗うわけではなく、鳳月や天紫珠李、風間柚乃など今作の出演者の顔を思い浮かべながら歌詞とせりふを書いたので、言葉のニュアンスがそれぞれに合ったものになっているといいなと思っています。
 ほかに、宝塚版ではかなりカットされているネイサンとアデレイドとのやりとりを復活させたり、専科の悠真倫さんが演じるサラの後見人のアーヴァイドがサラに向けて歌う曲も、宝塚版では初めて入れました。2幕でスカイが歌う「座れ、舟が揺れる」というナンバーも本来はナイスリーの楽曲なので、ナイスリーを主体にしてスカイやネイサンが絡んでいくという流れにしています。
 これまでの宝塚版とは違う印象を受けられるお客様が多いと思いますが、いまの月組のメンバーと一緒に作り上げる新たな作品として、フレッシュにご覧いただけたらうれしいです。

 ちなつは、芝居のうまさと大人の魅力がスカイ役にぴったり。スカイは悪い男という捉え方もありますが、アメリカ中を旅しているギャンブラーでありながら、聖書を12回も読んでいる男。スカイ自身はそうは思っていないけれど、どこか孤独で影のある部分も持ち合わせている。そういうニュアンスはちなつだからこそ演じられると思います。いま稽古場で観ていても「これがスカイだよね」と納得してしまうくらい素敵で、説得力のある芝居をしてくれています。

 じゅり(天紫)が演じるサラは、聖書が正しいという信念を人に押し付けるお堅いキャラクター。そんなサラがスカイと出会ったことで変わり、自分自身も知らなかった一面が出てくる。彼女は男役経験者で、相手役の隣に堂々と立つことで2人の関係性を見せられる人なので、頼もしく思っています。
 ネイサン役のおだちん(風間)は、本当にお芝居がうまい。それに加えて、内面にあるものがチャーミングで人を惹きつける力を持っているので、すごく面白い。演じようとしないところが魅力で、その時の相手を感じて芝居ができる人だと思います。これまでよりもネイサンの役割が増えていますが、きちんと魅せてくれているなと感じます。

 そのネイサンと婚約して14年というアデレイドは、みちる(彩みちる)とあみ(彩海せら)のダブルキャスト。それぞれの個性がまったく違うので、稽古でもあえて同じようには指示していません。みちるは、男役が演じることが多いアデレイド役に久しぶりに娘役として取り組んでいますが、変幻自在な女の子のかわいらしさ、14年間結婚できていない不満などを嫌味にならずに提示してくれている。憑依型で振り切った芝居ができる役者ですが、退団を控え最後の役をどう表現してくれるのか期待しています。
 あみは初の女役ですが、彼女自身が持っているチャーミングさがアデレイドに反映されていますし、男役ならではの押し出しもあるのがすごくいいと思います。稽古場でみちるとあみが仲良く歌の練習をしている姿もかわいらしいですし、自然と違うアデレイド像になっているので、ぜひどちらのバージョンも楽しみにご覧いただけたらと思います。

 ぱる(礼華はる)演じるナイスリーは、どこか抜けていてほっとけない魅力がある人。ぱるは近年本当にうまくなりましたし、押し出しがあって目がいく人なので、出番が増えたナイスリーをどう料理してくれるのかすごく楽しみです。ほかにも、梨花ますみ組長以下、皆が芝居達者ですし、お稽古当初からどの役の人も自分がどう作りたいかというビジョンがあり、すごく助けてもらっています。

 1950年のブロードウェイ初演から現代まで変わらない普遍的な魅力を持つ、とにかくハッピーなミュージカルなので、日常を忘れて「あぁ、楽しかったな」と思っていただける3時間になるよう、皆で力を合わせて作っているところです。それに、ある意味 “バカバカしさ”を100%出せる演目だと思っていて(笑)、スタッフの先生方にもいい意味で「バカバカしく作ってください」という発注をしています。コメディなので、大爆笑して楽しんでいただけたら何よりです。

 本編とつながるラインダンスも目玉のフィナーレ、これまでとは違う大胆で立体的なセットも含めて、新たな作品として暑さを忘れて楽しんでいただければと思います。