冠協賛公演コーナー

三井住友VISAカード シアター星組『1789 -バスティーユの恋人たち-』演出家インタビュー

脚本・演出  小池修一郎

『1789 ーバスティーユの恋人たちー』は、フランス革命を民衆や革命家、王族の両方から描いた作品。フランスでの初演版は、いろいろな立場の人が同時に描かれる群像劇の面白さがあります。フランス革命はフランス人にとって、日本でいうところの幕末の坂本龍馬や新選組のような定番のよく知るテーマ。史実として結論は変わらないものを、さまざまな登場人物がにぎやかに出てきて、今風の音楽に乗せてそれぞれの感情を歌う。ポップでカジュアルな大河ドラマとでもいいましょうか(笑)。ロックコンサートに近い雰囲気の、フレンチ・ミュージカルらしい概念で作られています。

 2015年の月組での日本初演、東宝での上演を経て、3度目のバージョンとなる今作は、よりロナンという青年の人生に焦点を当てたいと思っています。
 フランス革命というテーマでは、華やかさやロマンチシズムという宝塚歌劇最大の魅力を生かせる『ベルサイユのばら』という作品がありますが、今作ではそれとは対極を成す民衆側の視点をもう一度認識したい、と。地方農民で搾取される側だったロナンが、パリで革命家たちと交わることによって思想を学んで成長し、最後は人としての権利、自由を獲得しようと行動する。そうして自由、平等、博愛のフランス革命、人権宣言へと結びついていくというところを、お客様がきちんと共有できるようにしたいと考えています。

 星組トップスターの礼真琴は根がものすごく真面目なので、ロナンの実直さにおいて共通点がある。礼は労を厭わず、ある種アスリート的なスピリットで自分を追い込み、一つひとつの作品に取り組んでいく。そのぶつかり方、体当たりでいかないと気が済まない性質というのは、ロナン役にドンピシャリであると感じています。
 礼がこれまで培ってきた力を発揮する場として今作は合っていると思いますし、本人も切望してくれた作品と聞いてうれしいです。このミュージカル俳優と音楽との幸福な出合いが、きちんと身を結ぶようにするのが私の責務だと思っています。

 王太子の養育係・オランプを演じる舞空瞳は、トップ娘役として経験を積んでも、初々しさを失わない。新しい細胞が生まれて活性化するというような自己再生能力、エネルギーがすごく強い人なので、礼真琴という天才が走っていくのに対して、伴走していけるのだと思います。そこが彼女の強みですし、どんどん磨かれている歌の表現力、演技力の一つの到達点が、今作で見られるのではないかと期待しています。

 ルイ16世の弟・アルトワ伯役は、瀬央ゆりあ。いまの彼女であれば余裕を持ってできますし、真面目すぎるくらい真面目な瀬央が真逆の悪い役をやることでほぐれていったら、役者としてさらに面白くなると思います。
 前回の月組公演にも出演した暁千星は、革命家でジャーナリストのデムーラン役。演技力もすごく伸びているいまの暁であれば、真面目で清廉潔白な役を的確に、清潔感を持って表現してくれるのではないでしょうか。

 ロベスピエールは、極美慎。革命家ですが、今作ではかっこいいロックな歌も担う役。スター性は抜群なので、自分の持っているものを早く開花させてほしい。今作で、一皮も二皮もむけてくれたらと楽しみにしています。
 マリー・アントワネットを演じるのは、有沙瞳。キャリアのある娘役が持てる力を余すところなく演じてくれたならば、アントワネットの光と影をきちんと表現してくれるのではと期待しています。

 今作の結末となるフランス人権宣言で語られることは、とても大事な当たり前のことなのに、実現していないことがまだまだたくさんあります。8年前とは日本を取り巻く環境、社会の在り方も変化しているなか、この人権宣言の聞こえ方も微妙に異なってくるのではないでしょうか。明日さえわからない揺れる世の中で、時代を切り拓いていく志を持った青年の物語として、お客様の心に残る作品になればと思っています。