永久輝せあコーナー

今月のメッセージ

とても充実していた、花組全国ツアー公演。

永久輝せあ 今月のメッセージ  先日、花組全国ツアー公演『哀しみのコルドバ』『Cool Beast!!』が閉幕しました。なかなか落ち着かない状況のなか、無事千秋楽を迎えられて、とてもうれしく思います。ご覧いただいた皆様、ありがとうございました。

『哀しみのコルドバ』で演じたリカルド・ロメロは、自分にないものがたくさん詰まった役だったので、本当に勉強になりました。これまであまり描かれていなかったエバへのロメロの思いが、まどかちゃん(星風まどか)演じるエバにプロポーズをするという新場面が加わったことでより明確になったので、今回のロメロ像を作るにあたって一番大切にしました。エバを金銭的に支えている意味でパトロンではあっても、1人の女性として真剣に愛しているということを中心に、役を深めていきました。
 ロメロは自己中心的にならず人への対応ができる人ですが、闘牛場でエバをはたいてしまうシーンで一瞬、感情が露わになります。このシーンの私の捉え方としては、愛する人に手をあげるという行為は、エバへの愛情や思いが強くなくてはできないことだったのでは、と思っています。そして、あまりロメロらしくないこの一瞬の行動に彼の人間らしさも感じるので、とてもこだわって演じていました。

 柚香光さん演じるエリオに対しても、ロメロはとても敬意を抱いているので、今回はそれを大切にしました。マタドールとしての人生を貫いているエリオに対し、ロメロもエバへの愛を貫きたいと思っているので、共有できる価値観があるのでは、と。三角関係といっても、愛する人を奪った人を憎むのか、愛する人が自分を裏切ったことに絶望するのかは人それぞれ。ロメロの場合、エリオが奪ったということよりも、エバとの関係性のほうが重要だったので、エリオへの敬意は捨てきらずにいたと感じました。そんなエリオの、エバと兄妹であったことの絶望感は果てしないですし、同じ人を愛した男としても感じることもあるので、そこは寄り添って受け止めたいと思いました。

 ラストシーンのその後を私なりに想像すると、ロメロはエリオが亡くなったことですごく傷ついたエバを、今後も側で支えていくように思います。ただ、傷ついた彼女の姿を見るのはきっとすごく辛いですし、自分を見てくれるかもわからない……。そんなことも含めると、やはりとても哀しいお話ですよね。

柚香さん、まどかちゃんとのお芝居について。

 柚香さんとのお芝居で印象に残っているのは、決闘のシーン。エリオとエバが兄妹だったことが明らかとなった後、ピストルを受け取る場面。決闘をする資格さえも取り上げるようで私も苦しかったですし、エリオも本当に辛いと思うんです。そんななかでも「ありがとう、セニョール、ロメロ」と声を絞り出す柚香さんのお芝居に、いろいろな気持ちが濃縮されているように感じて、毎回心が動く瞬間でした。

 まどかちゃんとは初めてお芝居をしたのですが、とても感性が豊かだなと感じました。私自身がエバへの愛を大事にしていたので、こう見えたほうがいいのではと提案したり、シーンについていろいろな話をしました。なかでも、闘牛場でエリオとエバが逢い引きしているところに駆けつけるシーンで、ロメロが登場したときにエバが涙を流したことが、すごく印象に残っています。ロメロとの生活がつまらないもので、愛を感じてないとしたらエバがエリオを選ぶのは簡単ですが、今回はロメロとエバの関係も深まったぶん、エリオを選ぶことの覚悟や苦しさ、葛藤も余計にあったのではないかなと感じていて。それがまどかちゃんのエバから伝わってきて、心震える大好きな場面でした。

とても勉強になった、ショーでのエストーム役。

永久輝せあ 今月のメッセージ 『Cool Beast!!』で演じたエストーム役は、前作から出演する場面がすべて変わったのでかなり不安もありましたが、明るい新曲も増えましたし、いろいろな表情を出せたらと思ってチャレンジしていました。エストームは通し役ではあっても場面によって雰囲気が全然違いますし、場面ごとに違う声や歌い方をしてみたらどうか、と先生からもご提案いただいたので、そこも意識しながらお稽古をしました。

 一番印象的なのは、やはり柚香さん演じるベスティアとのデュエットダンスです。柚香さんには何度もお稽古していただきました。実はこの場面、髪型にもこだわっていたんです。濃密に絡む振付、身を焦がすような振付もあったので、髪がきれいに固まっていることがもったいないなと思い、柚香さんに相談させていただきました。柚香さんはかぶり物をしていて髪の動きがないので「どちらかに動きがあったほうが面白いかもね」と言ってくださったので、早着替えで時間がないなか毎日必死にムースを揉み込んでいました……(笑)。
 柚香さんの表現は、毎日少しずつ違って、本当にすごかったです!! 私の前髪を直してくださったり、私が少し体制を崩したら支えてくださるときもあったり、冷静な部分も持ちつつ、遊びつつ……本当にすごすぎて言葉が見付からないのですが、とても勉強になりましたし、毎日新鮮でドキドキもする場面でした。

 コロナ禍で最近は組のみんなと食事も一緒にできず、楽屋でしか付き合いがない日々でしたが、全国ツアー公演では一緒にバスや新幹線で移動したり、共有する時間が多く、言葉を交わす機会があって楽しかったです。出演者数も少ないぶん下級生に至るまで与えられるものが多かったので、お稽古場からみんながすごく熱心に頑張っている姿を見られたのも印象的でした。
 各地で違う会場で上演することも新鮮でしたし、喜んでくださっているお客様を近くで拝見できてとてもうれしかったです。宝塚歌劇は皆様に元気を与えられる、「それってすごいことだ!」と改めて感じることができました。皆様、ありがとうございました。

『元禄バロックロック』 『The Fascination(ザ ファシネイション)!』制作発表。

 先日、次回の花組大劇場公演の制作発表が行われ、出席させていただきました。初めてだったので緊張しましたが、「全国ツアー公演の初日よりも緊張してない!」と自分に言い聞かせ(笑)、楽しむことができました。パフォーマンスで披露したショーの主題歌は、柚香さんのソロから始まるパートに、お稽古のときからすでに涙が出そうになりました。現代的で新しい感覚のあるバックの音楽、花組の歴史の重みを感じるようなメロディライン。その歴史の狭間に自分たちがいるんだなと感じて、すごく感慨深かったです。2曲目の「心の翼」は、東京国際フォーラム公演『DANCE OLYMPIA』の花組メドレーでも最後の曲でしたし、とても大切な楽曲なので歌うとやはり心が震えますね。

 記者会見でも少しお話ししましたが、花組100周年ということでこれまで花組に関わってこられた方々への感謝と敬意をすごく感じます。先輩方が紡いできてくださったからこそ、いま自分もここにいられていますし、改めて素晴らしい歴史のある組だなと感じます。
 そんな花組の魅力がショー『The Fascination(ザ ファシネイション)!』で表現されると思うので、私自身もとても楽しみです。また、『元禄バロックロック』では、元赤穂藩家老のクラノスケを演じます。また次回、お稽古が深まってきたらお話ししたいと思います。

※このメッセージは、9/21(火)のものです。

テーマ:「読書の秋にオススメの小説」

  • ◎恩田陸『ライオンハート』

    下級生のとき、同期に薦められて読んだ本。国や時代を超えて男女が出会って、別れてを繰り返す物語です。さまざまな国や時代、年齢で出会い、結ばれることなく別れてしまいますが、出会った瞬間が最高に幸せ、会えて良かったと心の底から思えることがとってもロマンチック。魂の生まれ変わりで必ず出会えるというのも素敵だなぁと思います。
  • ◎市川拓司『こんなにも優しい、世界の終わりかた』

    題名に惹かれて買った小説。ゆっくりと侵略する青い光が注がれると、動物も人も動きを止めてしまう。そんな世界が終わるとき、誰に会いたいか、何を思うかというお話で、主人公は昔好きだった女の子に会うために歩いて旅をする。なんとも優しくてなんとも悲しい物語ですが、いま自分が抱える雑念は本当にちっぽけだなとも感じられる一冊です。
  • ◎上橋菜穂子『狐笛のかなた』

    長編でドラマ化もされている『精霊の守り人』など「守り人シリーズ」の著者の本です。架空の国の設定で、キツネとそれを助けた少女が描かれています。呪いなども出てくる和風ファンタジーなのですが、とても優しく温かな物語で、大好きでした。『精霊の守り人』も読みましたが、とても面白かったです! 今回の3冊は、季節に合わせて、切ないけれど温かな物語を選んでみました!