永久輝せあコーナー

今月のメッセージ

『冬霞(ふゆがすみ)の巴里』で演じるオクターヴ像。

永久輝せあ 今月のメッセージ  このメッセージがアップされるのは、『冬霞の巴里』の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演が終わり、東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)公演が開幕しているころだと思います。ご観劇いただいた皆様、ありがとうございました。そしてこれからご来場くださる皆様、劇場でお待ちしています!

『冬霞の巴里』は、19世紀末のパリを舞台にした作品。私が演じるオクターヴが、幼いころに亡くなった父の死の真相を暴くため、姉のアンブルとともに故郷のパリに帰って来たところから物語が始まります。

 ポスター撮影の時点では屈折した人物像をイメージしていましたが、台本を読み、役を深めていくなかで、闇を抱えた邪悪な人というわけではなく、普通の感覚も持っている青年なのではないかと感じるようになりました。
 役に近づくうえでまず考えたのは、6歳で父を失ってからの19年間、何を抱え、何を思って生きてきたのか、どういう風に成長していったのか、ということ。父の死は、当時まだ幼かった自分にとってとても衝撃的な出来事だったので、そこから時が止まってしまったような気がします。だからオクターヴの根本には、人間として成長しきれていない弱さ、未熟さ、純粋さがあるのだと感じています。

登場人物のさまざまな思いが交錯する作品。

 オクターヴは、自分の母と叔父が父を殺したのではないか、という疑惑をずっと抱いて生きてきました。幼いころはよくわかっていなかったとしても、大人になるにつれて絶対そうに違いないという強い気持ちが芽生えていったのではと思います。

 オクターヴは憎しみを抱えていて、人よりも強く復讐心を持っていますが、ほかにもこの作品には、いろいろな思いを抱えた人物が多く登場します。母や叔父だけでなく、オクターヴと姉が暮らす下宿に住む人々など……どこか欠けていたり、何かを失っていたりする人ばかり。ベル・エポックの華やかなパリとは裏腹の暗く重い人間ドラマが描かれていて、とても奥の深い作品だと感じます。

姉や母、叔父に対する気持ちとは。

永久輝せあ 今月のメッセージ  星空美咲ちゃんが演じる姉のアンブルは、オクターヴにとって重要な存在です。オクターヴは、姉とともに復讐を果たそうとしていますが、「父の無念を晴らすこと」と「姉の存在」は同じところにあるようでいて、別物のような気もしていて……。いまお稽古場でその部分がとても難しく、課題だと感じています。姉とは、依存や執着心という重い感情ではなく、お互いのことを救済し合えるのはお互いしかいないという、もっと深くてピュアな関係性だと感じています。
 1幕は死の真相を暴くことが中心になると思いますが、2幕では復讐するにあたり、姉への思いを改めて自覚することで葛藤していく。単純な復讐劇ではない作品の魅力を感じていただけるのではないかなと思っています。

 母のクロエは、専科の紫門ゆりやさんが演じられます。とてもきれいでお優しい方なので、役として憎まないといけないのがつらい!! 男の子にとっての母親というのは、少し特別な存在だと思うんです。その母親から愛されていないと感じたり、父の弟である叔父と再婚したという女性としての面や、憎まないといけない複雑な家庭環境を考えると、すごく難しい感情を抱いているだろうなと思います。

 飛龍つかさ君が演じる叔父のギョームに対しては、さらに複雑な感情があります。叔父ということで血のつながり、縁の深さはありつつも、「この人は自分の家族ではない」と“よそ者”扱いをしたい感覚もあって、母に向けきれない憎しみがより強く叔父へ向いているのかな、と。母と姉、叔父とオクターヴという、女同士、男同士の戦いという側面も描かれているのも、興味深いです。

 そんな姉や母、叔父への気持ちが複雑で、考えるたびにいろいろなことがグルグルと頭を巡っていて、誰が正しいのか、事件の原因はなんだったのか、正解がわからない難しさがあります。そんななか、「自分から父を奪った者に復讐する」という強い気持ち、父との絆、父から愛されたという思い出だけは信じたいと思いながらも、それさえも崩れていく……。自分が信じたいと思っていたものがすべて崩れたときに、何を選び、何を見つけるのか。すごく面白い作品になるのではないかなと感じています。

出演者と力を合わせて……。

 初めて台本を読んだとき、結末の落としどころと、それに至るまでの過程がとてもドラマチックなところが、海外ドラマのイメージと重なりました。登場人物がみんな何かしら抱えていて、いろいろなものが渦巻いているので、一つひとつの場面を丁寧に積み重ねないとこの結末を迎えられない。単にオクターヴの生き様をお見せするだけではなく、出演者全員での“団体芸”が必要だなと強く感じています。そういう作品はなかなかないと思うので、演じる側としても面白いですし、何よりもお客様の反応がとても楽しみです。それぞれのドラマをどう受け取っていただけるのか、結末の受け止め方も人それぞれなのかな……とワクワクしています。

 この時代に、ハッピーな作品ではなく複雑なテーマを持つ作品を上演する意味、何を伝えたいのか、ということをよく考えるのですが、1つの演劇作品として、日常ではなかなか味わうことのないドラマが繰り広げられる面白さもあるのではないかな、と。そんな作品の世界に没頭していただけたらうれしいです。

 お稽古前は、花組で初めて主演作をさせていただくことへの不安がありました。でもいざ始まると、周囲の方もすごくサポートしてくださいますし、皆さんとの稽古期間はとても充実しています。登場人物それぞれのドラマが大事な作品ということもあり、みんなが作品に向かうエネルギーにすごく救われています。

 シアター・ドラマシティ公演には、2014年から4年連続で出演させていただきました。少人数の公演という“チーム感も好きですし、思い出もたくさんある劇場です。そんな劇場に久しぶりに出られることも楽しみです。
 最下級生に至るまで全員に役があり、「みんなが成長期!」という稽古場の勢いを生かして、より良い舞台になるよう、頑張りたいです。

※このメッセージは、3/15(火)のものです。

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テーマ:「パリといえば……」

  • ◎『ノートルダム大聖堂』

    雪組時代、フランスが舞台の作品が続いたころにパリを訪れました。たくさんある名所のなかで印象的だったのが、ノートルダム大聖堂。以前、役の参考にディズニーアニメ『ノートルダムの鐘』を何度も観ていた時期があり、そのヒロインが歌う大聖堂の内部や、石像のキャラクターと同じような像を実際に見て、物語の世界を体感。たくさん写真を撮りました!
  • ◎『パリ・オペラ座』

    宝塚歌劇の『ファントム』や『オペラ座の怪人』にも登場するオペラ座。『ファントム』に出演したことがありましたし、昔からパリ・オペラ座バレエが好きだったので、パリに着いてすぐに行きました。ファントムが公演を観ていたとされる「5番ボックス」の席も、扉だけでしたが見ることができ、すごく感動したことを覚えています。
  • ◎『オニオングラタンスープ』

    素敵な名所に加えて、あえて料理で挙げると、オニオングラタンスープ! フランス革命の革命家が集っていたという有名なカフェのスープがすごくおいしくて……。ほかの料理も食べた気がするのですが、スープの印象しかない(笑)。ほかのお店でもやたらと注文した(笑)、パリの思い出の味です。