永久輝せあコーナー

今月のメッセージ

『冬霞(ふゆがすみ)の巴里』、ご観劇いただき、ありがとうございました。

永久輝せあ 今月のメッセージ  梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、東京建物 Brillia HALLで上演された花組公演『冬霞の巴里』。先日、無事に千秋楽を迎えることができました。これまで公演の延期や中止もあったので、千秋楽までみんなで駆け抜けられた喜びが、とても大きかったです。
 1日1日があっという間で、公演が終わっていく寂しさを感じながらも、私だけでなく出演者みんなが楽しそうに充実感を持って舞台に立てていたように思います。
 ご観劇いただいた皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

 今月は、『冬霞の巴里』についてのお話を中心にお届けしたいと思います!

オクターヴの魅力、復讐については……。

 オクターヴは、主人公として意外性のある面白い役だと感じました。誰彼構わず殺すアナーキストとは違い、父の死に関わった罪のある人だけに裁きを下すという思いが強いのに、犯人のブノワだけでなく、気付いたら関係ない人も手に掛けてしまっていた。そのことで後悔や恐怖心、痛みを感じるということが、悪に振り切っているわけでもなく、純粋なだけでもないオクターヴの魅力であり、重要な部分だと思って演じていました。
 私自身この1年、役を通してずっと「復讐」というテーマに向き合ってきたなかで、「復讐するときはとても孤独だ」と感じてきましたが、オクターヴを演じていてもそうでした。「復讐」はまるで幼い自分と父との約束のようで、自分を縛りつけているものであると同時に、どんな時も父が味方でいてくれるという拠りどころでもありましたが、それが揺らいだときの「孤独感」はものすごいものでした。

 また、ヴァランタンが叔父を殺そうとしたときにとっさにヴァランタンを撃ってしまうシーン。もちろん勢いだったように見えますが、「とっさの行動」ほど、自分のなかで答えを積み重ね続けたものはないと私は感じます。叔父と母をかばう=父を裏切るという苦しさはありますが、それでも、それが自分のなかに最後に残ったものであり、周りからは諸悪の根源のような父でも自分には愛情を注いでくれていた。それによって育まれたオクターヴの一部分でもあるのなら、悲しみも愛も始まりはどこだったのかと思いたくなってしまいますね。
 それに、ヴァランタンに対しては、まるで彼が死に場所を探しているようにも思えたので、他の誰かではなく自分が手を下すというのが、彼との関係性を象徴しているようで毎日とても胸が痛みました。

姉や母、叔父への思い。

永久輝せあ 今月のメッセージ  姉・アンブルとは運命共同体なので、演じた星空美咲ちゃんとはお稽古場でたくさんの時間を共有して、一緒に台本に向き合ってきた絆みたいなものが、姉弟の関係性にいい影響を与えたのではないかな、と。お稽古場でも、偶然動作がシンクロしていたり、決めていないことが自然にそろっていたりしていて、自分たちでも驚くくらいでした。
 2人の結末、物語のラストシーンについては、ハッピーエンドとは言いにくく、未来も明るいものではないかもしれない。でも姉という自分の居場所もあり、「浄化」とまではいかないですが、やっと父の死の痛みを受け入れられたような解放感もありました。

 専科の紫門ゆりやさん演じる母・クロエとの印象的な場面は、ヴァランタンを撃った直後に声を掛けられるシーン。ずっと愛されていないと思っていた母親の目に、初めて自分が息子として映っていることを実感して、血がつながっていなくても「やはりこの人は自分の母なんだ」と思い知らされるようでした。
 また、飛龍つかさくん演じる叔父・ギョームに対しても、この人のせいで自分がずっと“冥界”にいてすごく不幸だと思っていたけれど、叔父さんもずっと“冥界”にいたことを最後の場面で目の当たりにする。2人の真実を知って、許せない気持ちはありつつも何かがほどけていくような毎回不思議な感覚でした。

 希波らいとくん演じる義理の弟・ミッシェルと、愛蘭みこちゃん演じるその婚約者・エルミーヌに対しては、父の死とは無関係な2人を巻き込みたくない気持ちはすごくあります。でも、純粋な心が向けられるのが逆に痛いですし「自分にもこんな未来があったのでは」ということにも気付かされて、眩しくて、憎くて、最後まで感情が揺れ動いていました。エルミーヌに誘われて散歩をしたり、それで心が穏やかになってしまうところもオクターヴの魅力ですが、明るい世界を知れば知るほど「やはり自分はその世界にいられない」と思ってしまう1幕ラストへの流れもすごく面白いなと思いました。

そのほかの役、作品に対しては……。

 ほのかちゃん(聖乃あすか)演じるヴァランタンをはじめアナーキストとブルジョアの対比も、明確に描かれていました。自分は彼とは違うという反抗心もすごくありつつも、孤独を感じたときに声を掛けるのはヴァランタン。オクターヴの復讐心の象徴、もう1人の自分というような存在でもあるのかなと感じて面白い関係性だなと思います。

 ジャコブ爺を演じられた専科の一樹千尋さんは、本当に素晴らしい方で大きく受け止めてくださいました。衝撃の事実をいくつも突き付けられるジャコブ爺とのシーンの後、オクターヴは一気に孤独を感じるだけでなく、自分の本心がうずき出す感じがして余計に心が迷い、ラストへと向かいます。一樹さんの深いお芝居が本当に素晴らしくて、演じていても毎回引きこまれるようでした。

 これまでいろいろとお話ししてきましたが、私が言うことが正解ではないので、それぞれの見方で受け取っていただけたらと思いますし、いろいろと感じていただけたのであれば、とてもうれしく思います。
 作品のテーマから学ぶことはもちろん、この作品にみんなで力を合わせて挑めたことが、主演させていただいた立場としてとても幸せで達成感がありますし、周りのみんながとても眩しく……この感覚をずっと忘れないでいたいです。劇場や配信でご観劇いただいた皆様、本当にありがとうございました。

『TOP HAT』、本当に素敵でした!

 柚香光さん率いる花組公演『TOP HAT』は、同時期に大阪で公演をしていたのですが、まったく違う世界でした! 柚香さんとまどかちゃん(星風まどか)の心の距離が縮まるシーンで雷が鳴るのですが、『冬霞の巴里』で雷が鳴るシーンはとても不穏な雰囲気……(笑)。同じ雷でこうも違う捉え方なんだと、とても面白かったです。
 柚香さん演じられたジェリー役は、本当に魅力的でした。表現しようと意図されてなくても醸し出る遊び心などが本当にすごいなと思いましたし、タップもとても華麗で心惹かれました。柚香さんをはじめ、出演者の皆さんが楽しそうでキラキラしていて、幸せな気分になれる素敵な作品でした!

ホームページのビジュアルが一新されました。

 このホームページのビジュアルが、4月から一新されました。使用写真は2022年度のカレンダーのカットなのですが、今年度は背景がさまざまな空の風景ということで、アクティブでカジュアルなお衣装も多く、これまで以上に動きのある撮影でした。看板にもなっている光沢のある青色のジャケットは、初めて着る色だったのでどういう風に見えるのかなと思っていましたが、先日空港で看板を見かけたとき、パッと目がいきました(笑)。ホームページのカレンダーフォトコーナーでも順次アップされ、トップページの写真はシーズンごとに変わるようなので、皆様ぜひお楽しみになさってくださいね!

※このメッセージは、4/18(月)のものです。

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テーマ:「入学・入団シーズンの思い出」

  • ◎『制服』

    入学シーズンというテーマでまず浮かぶのが、制服。セーラー服に憧れて入った学校でも入学式のときに着られてうれしかったことを覚えていますし、宝塚音楽学校の入学式でも制服を着るときにすごくドキドキしました。その前に大変な入学準備期間があるので、実はあまり入学式前後の明確な記憶がないのですが(笑)、袖を通したときの感動は印象に残っています。
  • ◎『桜』

    以前も好きな花のテーマのときにお話ししましたが、やはり桜のイメージが強いですね。バウホール公演初主演作『PR×PRince』もこの時期の上演だったので、花のみちの桜を見ながらも劇場に通ったことを思い出しますし、きっとこれからは『冬霞の巴里』も思い出すだろうなと思います。皆様は今年、どんな桜をご覧になられましたか?
  • ◎『ラインダンス』

    私たち97期生は個性的な期だということで、ラインダンスも個性を重視した自由な振付を付けてくださったので、お稽古も本番もすごく楽しかったイメージがあります。初舞台ということでは、口上のお稽古も印象に残っていますし、星組の上級生の方々がすごく眩しくて、素敵で……。「やっぱり先輩方はかっこいい!」と思いながら毎日過ごしていたことを、いまでも覚えています。