永久輝せあコーナー

今月のメッセージ

作品のスパイスになるように。

永久輝せあ 今月のメッセージ  このメッセージがアップされるころには千秋楽を迎えている、花組宝塚大劇場公演『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』『Fashionable Empire』。ご観劇いただいた皆様、ありがとうございました。

 お芝居で私が演じているジョルジュ・サンドについて、作・演出の生田大和先生から「作品のなかで山椒や胡椒のような人物であってほしい」というお言葉をいただいたのがとても印象に残っています。もちろん、役としてどう生きていくのか、言葉や行動の意味や理由を見出して突き詰めることも必要ですが、サンドがいることで場の空気がピリッとしたり、引き締まったり……。そんな作品のなかの辛味、スパイスとなる存在、というように捉えて演じています。

 この作品は、柚香光さん演じるリストとサンドの場面から始まります。お稽古中、柚香さんに何度も合わせていただき、振付の先生にもたくさんヒントをいただきながら作り上げていきました。腕の撫で方や手の握り方、首の角度などの細かい動きも普段男役の私にとっては慣れないことばかりで、「サンドならこう動くのでは」「こっちのほうがサンドらしい」と“サンドらしさ”を少しずつ見つけていくお稽古期間でした。
 そして幕が開いて、パリの街並みが眺められる窓、椅子やピアノなどのセット、夜の薄暗い照明の中に身を置くことで、一気に世界に入り込めるようになりました。

 まどかちゃん(星風まどか)演じるマリーがリストの魂の傷を癒やす存在だとしたら、サンドは同志であり理解者なのかな、と。お稽古当初はリストの恋人としての女性らしい部分や恋愛要素を意識して取り入れるようにしていましたが、最近ではこの2人だけの空間にいることで、お互いにしか理解し合えない何か、誰も見ていない2人だけの雰囲気みたいなものが確立できたような気がしています。

 先生もこの作品を「絶対に最初から観たいと思っていただけるような場面に」とおっしゃっていたのですが、私自身もぜひ見逃していただきたくないシーンです!

“彷徨う魂”の物語。

 サンドを演じていて一番中心にあると感じるのが、芸術に対しての愛と情熱。作家という自分の仕事に対してもそうですが、周りの芸術家たちの才能に出合ったときも、「私が一番理解できる」という強い自信を持っている。人目を気にせず男装していたり、革命のルポルタージュを書こうとしたり……周りから見るとトリッキーな人生ですが、芸術に対しての思いが誰よりも強いことこそ、どんな時も揺らがない彼女の芯につながっているのではないかなと思っています。

 リストとのシーンで、サンドが書いた本『アンディアナ』について「真実の愛を求めて彷徨う魂の物語」というせりふがあります。冒頭ではリストにそれが見付かったのかと問われますが、最後の場面では、逆にサンドがリストに問いかけます。伏線にもなっていますし、『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』という名の通り、作品のテーマでもあるので、お客様の印象に残るようにすごく大切にしています。

 また、サンドのせりふのなかに「これは私の物語」とありますが、人にはそれぞれ自分の人生という物語があり、他人の物語のなかにいるわけではない。真実の愛を探したり、自分の魂の行き場を求めて、何かを見つけたり、失敗して後悔したり……。そんな人生を「物語」と例えるとところに作家ジョルジュ・サンドとしてのセンスや大きさを感じています。

温かなショパンとの時間。

永久輝せあ 今月のメッセージ  サンドがショパンの死を看取る場面がありますが、史実上は死に目には会っていないようです。でも先生が「実際に一緒にいなくても、魂は側にいたのでは」とおっしゃっていて、私はすごく納得しています。9年もの間側にいた人の死を、たとえ何があろうと遠くからでも思わないわけはない、と。

 サンドは、野心や欲望、本能のままに生きて、自分の経験をネタにして作品を生み出すドラマチックな人生を送っていますが、それと同時に、犠牲にするものも失ったものもあると思うんです。そんななかで、どこか求めていた穏やかさを、ショパンとの日々のなかで見出したのではないかなと感じます。水美舞斗さんが演じられるショパンとの間に流れている時間はとても温かく、演じていていつも涙が出そうになります。

 リストやショパンとのシーンについては、また次回もお話できたらと思います!

おしゃれなショー『Fashionable Empire』。

『Fashionable Empire』では、幕開きから出演させていただいています。 “Fashionable Empire”に誘い込まれるというシーンになっていて、下級生たちと一緒にお稽古しました。その後は、私も Empireの住人となって、登場(笑)。銀橋で花組ポーズをしたり、歌詞に合わせたおしゃれな振付で盛り上がりますね。

 続くファッションショーの場面では、デザイナー役として出ています。ド派手でワイワイと盛り上がるシーンなのであっという間に終わってしまいますが、舞台上ではスタッフやモデル役の子たちの、マイクには入っていないせりふも飛び交っているので、すごく楽しいです。

 そして、中詰めの飛龍つかさ君と帆純まひろ君との場面。オーケストラピットから登場するのは新人公演以来なのですごくうれしいですし、ワクワクします。男役として遊び心を持って表現できるように、ちょっとしたニュアンスなどを3人で話し合いました。舞台に立ったときの信頼感、安心感がとてもあって本当に楽しく、このショーのなかで一番好きなシーンです。

 そんな3人のシーンから始まる中詰めは、夜にまつわる歌を集めたスウィングジャズが流れていて、とてもおしゃれ! 柚香さんとまどかちゃん、水美さんと音くり寿ちゃんの2組のカップルが踊られる場面では、光栄なことに「Fly Me to the Moon」を歌わせていただいています。もともとフランク・シナトラのカバーをよく聞いていて大好きだったので、すごくうれしかったです。

「Fashionable Moment」の場面は、柚香さんが最初に歌われている曲がすごく好きで……毎日いい曲だなぁと袖で聞いています。そして最後にかけて全員の歌がピタッと合ったとき、みんなが同じリズムを感じて歌うコーラスの厚みを全身で感じられて、いつも鳥肌が立ちます。みんなの心が一つになる場面だと思うので、大切にしています。

 皆様、東京宝塚劇場公演も、どうぞよろしくお願いいたします!

※このメッセージは、6/13(月)のものです。

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テーマ:「好きなクラシック曲」

  • ◎『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」』

    今作のプログラムでもお伝えしましたが、すごく好きな曲です。好きすぎて、宝塚音楽学校の卒業試験でも選曲したほどです! そのころからずっと、いつかこの曲で舞台に立ちたい!と思っていたら、雪組公演『SUPER VOYAGER!』でのぞさん(望海風斗)たちが踊られていました。私もいつか機会があったら踊ってみたいです!
  • ◎『G線上のアリア』

    バッハが作曲した曲を、ドイツのヴァイオリニストが編曲した楽曲。映画やドラマでもよく使われている名曲ですよね。お稽古で悩んだり、ちょっと頭を整理したい気分のときに聞いています(笑)。どこか心の扉が開いて、抱えているものが流れ出す気がして……。この曲を聴くと浄化されるような感じにもなるので、大好きな曲です。
  • ◎『チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲』

    チャイコフスキーの音楽はバレエでもよく使われるので昔からなじみがあるのですが、なかでもこの曲のサビのメロディがとても好きなんです!宝塚ではクラシック音楽をアレンジして使うことも多いので、いつか男役の燕尾の場面などで踊れたらと密かに夢見ています。