永久輝せあコーナー

今月のメッセージ

『うたかたの恋』のフェルディナンド大公について。

永久輝せあ 今月のメッセージ  このメッセージがアップされるころは、『うたかたの恋』『ENCHANTEMENT(アンシャントマン) -華麗なる香水(パルファン)-』東京宝塚劇場公演の千秋楽が近づいていると思います。ご観劇いただいた皆様、ありがとうございました。

『うたかたの恋』宝塚大劇場公演は、途中に中止期間もあり少ない公演回数ではありましたが、毎回いろいろな気付きやひらめきがあり、新鮮な感覚のまま千秋楽を迎えることができました。

 この作品のなかでは、柚香光さんが演じられるルドルフ、水美舞斗さんが演じられるジャン、私が演じるフェルディナンドの三者三様の恋模様や人生の選択の対比が描かれています。そのなかでフェルディナンドは、潤色・演出の小柳奈穂子先生から「いい子」というキーワードをいただくことが多く、私もそれを念頭にお稽古してきました。
 ですが、人間誰しも嫌な気持ちやずるさ、拒否したいことや苛立ちがある。それを表に出したり行動するかは本人次第ですが、いい子とされているフェルディナンドにも、そういうきれいではない気持ちもあるのではないかなと、舞台で演じていて思うようになりました。役を魅力的に演じることと、その役が善人であることは違うので、普段から自分の役をいい人に演じようと思わないように気をつけているのですが、今回は若さや純粋さという先入観を持ちすぎていたのかもしれません。

 例えば、フェルディナンドはルドルフの背中を見ていて、この人がこの国の未来を背負う皇太子である限り、自分が背負うことがないというある種の安心感みたいなものもあるのではないかな、と。でもそれは、ずるさというより彼の甘さや臆病さであったり、ルドルフを心から尊敬していて、この人こそが相応しいという憧れの感情があってこそだと感じています。

 またソフィーに対しても、単純に一緒にいて幸せで恋を全うしているだけであって、最初からいつかこの人と結婚してハプスブルクの伝統を壊していくという覚悟を持ってお付き合いをしていた訳ではないと思えてきて……。自分の人間らしさを大切にすることと、祖国やハプスブルク家を守ることとが相反してしまうルドルフと比べて、自分が皇太子となり、いずれ皇帝になって好きな人と結婚するという未来があると叔父から見せつけられた瞬間に、フェルディナンドにとってはそれが相反しなくなる。そうなってようやく、ソフィーとの関係性、国を背負うことへの恐れの気持ちなど自分のなかの甘さと一気に向き合っていく、という流れなのかなと思っています。

 だからといって「ルドルフさえいなければ」とはまったく思っていなくて、私が1番大事にしているのは、闘っているのはルドルフではなく自分自身だということ。叔父の言いなりになっていい子に振る舞ってきた自分から決別したい、人生の選択を自分自身で決めたり、自分の貫きたいものを押し通す意地みたいなものが物語後半にかけて出てきて、なにがなんでもソフィーと一緒になる。というものに付随して、結果皇帝になる道を選ぶということにつながるのかな、と。
 でも、最後にルドルフに逃げ道を教えてしまう瞬間は、誰かや何かのためにいい子でいようとしてきたフェルディナンドのそうではない本質的な優しさやルドルフへの友情がこぼれ出たら素敵だなと思って、演じています。

いろいろな人から思いを受け取る舞踏会のシーン。

永久輝せあ 今月のメッセージ  舞踏会のシーンは、前半と後半に二度出てくる構成になっていて、とても好きな場面です。フェルディナンドとしてはソフィーとの未来を選ぶことは、同時にルドルフをいつか裏切らないといけないということになるので、そんな葛藤を感じています。プラーター公園の場面でルドルフから「君は自分の心に従うんだ」と言われたこともずっと頭のなかにあり、自分の心に従うとはどういうことか、その結果何をすべきか、ということを考えています。

 それに、幸せそうに踊るルドルフとマリーを見て、恋を謳歌する2人の姿にどこか憧れやうらやましさ、温かなものも感じます。また、近くに皇帝フランツ・ヨーゼフもいるので彼が座る王座、身にまとう勲章などを見て、もしかしたら自分もこの立場に立つのかもしれないと思ったり、ジャンと皇太子妃ステファニーと踊る場面では、祖国のために私情を飲み込んで出ていくステファニーの姿に、国の重さや国を背負う者の覚悟やプライドを感じたり……。いろいろな人からさまざまなものを受け取ることができる、大切な場面です。

楽しい従兄弟同士のシーン。

 ソフィーをルドルフに紹介するプラーター公園の場面は、人を愛する喜びや恋の楽しさなどがフェルディナンドからにじみ出ているほうがいいのかなと思っています。

 その後ルドルフと談笑する場面では、恋人・マリーの話を詳しく聞いたり、ルドルフからソフィーのことを聞かれたりして、少しずつお互いの恋人について話しています。純粋に楽しい場面が少ないなかで、ここのシーンでは従兄弟同士のくだけた楽しい雰囲気が伝わったらいいなと思っています。

好きな場面が多いレビュー。

『ENCHANTEMENT(アンシャントマン) -華麗なる香水(パルファン)-』は、プロローグからとても華やかな作品です。それぞれにモチーフとなる香りがあり、私はマリンの香り担当。人魚と貝殻があしらわれた青い香水瓶を持っていて、とても気に入っています。そのままシトラス・ボーイとして5人で舞台に残るので、プロローグのワクワク感を残しつつも、華やかなロケットにつながるように意識しています。

 その後の「FLoral(フローラル)」はニューヨークがテーマ。出演者全員が曲や振付、ナンバーへの愛着がにじみ出ていて、男役だけでスタンバイしているときからすでにワイワイ楽しいです。柚香さんの近くで踊らせていただいているので、音の取り方や貯め方を感じながら、抜け感のある美しさ、スタイリッシュさ、ニューヨークらしい洗練された感じを出せたらいいなと思っています。

 中詰めはオリエンタルで大人っぽい雰囲気。客席参加型で踊っていただける場面ですが、皆さんが参加してくださっていて、とてもうれしいです。扇子をデコレーションされていたり、好きなスターさんの名前をラインストーンで貼っていらっしゃる方など、すごくよく見えます。その後、歌い継いでいく場面は、貸切公演のときなどにアドリブを入れられるところで、ほのかちゃん(聖乃あすか)と事前に確認し合ったり、歌い終わった後に舞台袖で会う際に反省会をしたりしています(笑)。

「Woody&Marine(ウッディー&マリン)」は、毎朝ウォーミングアップでも歌うのですが、とてもいい曲ですよね。「The Water is Wide」というアイルランド民謡の有名な曲をアレンジしたもので、オールを使ったダンスも楽しいです。
 そして「Musk(ムスク)」は、お稽古場から絶対にかっこいい場面だと確信がありましたが、毎日踊っていても本当に素敵な場面! いろいろな人と目が合って高め合う感覚があり、毎回テンションが上がります。
 続く「Gourmand(グルマン)」はとてもメッセージ性のあるシーン。曲、振付、構成から最後のポーズの形まですごく素敵で、お稽古場から大好きな場面です。

 第三部「Last Notes(ラスト・ノート)」は、ブロードウェイ・ミュージカルの名曲をメドレーで歌うフィナーレです。最初のアイドル風の場面ではそれぞれ芸名をモチーフにした役名が付いているのですが、それが香水瓶のラベルにも描かれています。私のメンバーカラーはオレンジです! どこか意識しているようで、最近オレンジ色のものが目に付くようになり、身の回りのものにもオレンジアイテムが増えました(笑)。
 その後は、黒燕尾の場面。シンプルな着こなしのときは、バシッと踊る振付だったり、いかにも「男役の黒燕尾!」という場面になることが多いのですが、今回は小粋な感じで遊び心があって、とても新鮮で楽しいです。

※このメッセージは、2/15(水)のものです。

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テーマ:「好きなラブストーリー作品」

  • ◎映画『タイタニック』

    DVDもサウンドトラックも持っている大好きな作品! 今回の「Woody&Marine(ウッディー&マリン)」の場面でも劇中歌が使われています。最近久しぶりに観たのですが、以前はジャックとローズの2人が結ばれなかった悲しい結末に思えていたのが、少し大人になって観ると違う印象を受けて、また感動しました!!
  • ◎ミュージカル『GHOST』

    映画『ゴースト/ニューヨークの幻』が大好きだったので、以前に咲妃みゆさんが出演されていたミュージカルも観に行ったのですが、作品も曲も何もかも素敵でした。なかなかゴーストの存在を信じないモリーが「愛している」「同じく」というやりとりでやっと信じるところが、本当に切なくて大泣きしました。舞台を観た後、ブロードウェイ・バージョンのサウンドトラックを購入して、よく聴いています!
  • ◎小説『キミノ名ヲ。』

    もともと携帯小説だった作品で、一時期すごくハマって読んでいました。私はタイムスリップ系のお話が好きなのですが、主人公が鎌倉時代にタイムスリップして、後醍醐天皇と恋に落ちたりと、歴史上の人物と関わっていくというストーリー。章ごとに昔の色の名前が付いているのも、すごく素敵だなと思っていました。