永久輝せあコーナー

今月のメッセージ

ドン・ジュアンの人物像。

永久輝せあ 今月のメッセージ  このメッセージがアップされるのは、花組 御園座公演『ドン・ジュアン』が閉幕しているころですね。ご観劇いただいた皆様、本当にありがとうございました!

『ドン・ジュアン』が私にとってとても思い入れの強い作品なのは、自分のターニングポイントになったからというだけでなく、作品が持つ不思議な力に魅入られているからではないかと思っています。私だけでなく、潤色・演出の生田大和先生や振付の先生方も『ドン・ジュアン』に魅了されていることが伝わってきます。そこまで人を惹き付ける作品の魅力とは何なのか。千秋楽を迎えるときにその答えが見付かったらいいなと思いますし、たとえ答えは出ずともその"力"を体感したいと思いながらお稽古をしています。

 ドン・ジュアンは悪徳と放蕩の限りを尽くし、恐れを知らない強い男のように見えますが、女性やお酒に溺れて豪遊していても真の意味で満たされることを知らない、実はとても寂しい人なのかなと感じています。騎士団長の亡霊も、ある意味彼のなかだけに存在している心の声のようなものなのではないか、と。つまり自分で自分の蓋をしている部分に惑わされているので、余計に亡霊の存在が鬱陶しく感じるのではと思っています。

 彼が現在のような男になる過程に、母の存在も影響を与えていると思いますが、今作では母親役は登場しません。それによって"母"へのイメージも変わり、英真なおきさん演じられる父のドン・ルイとの関係性がより濃くなるように感じます。絶望はささいな事にも宿りますし、母の死を1つのトラウマとして縛り過ぎずとも、いまのドン・ジュアンにつなげられるのではと思っています。

 また、ドン・ジュアンがたどり着く先は愛ではなく、愛は終着点への鍵でしかないのでは、と。そして、「人であるために死を選ぶ」ことがどういう意味を持つのか、「死を以て生を体感する」「死ぬことで生まれ変わることを証明する」という一見真逆なことをどう表現しようかということが、作品と向き合うなかで一番の難関でした。

 セットも精神的な世界を表していて、砂に覆われたものが全部取っ払われると、四角の真っ白な石が残るというような仕掛けになっています。それはさまざまなものを身に纏っているドン・ジュアン、すべてを取り除いたときに残る彼の"真の無垢さ"を象徴していて、もともと持っていなかったものを手にするというよりは、持っていても見えなかったものに気づく、ということが、より今回印象的になったように感じます。初演の迫力とはまた一味違う、静けさも感じる作品になっていて、新作に挑んでいるような感覚があります。

ドン・ジュアン、そして周囲の人が向かう先には……。

永久輝せあ 今月のメッセージ  改めて台本を読んで感じたのは、この物語のなかでドン・ジュアンだけが最悪の人生を送っているわけではないということです。

 '16年の初演時、マリアの婚約者・ラファエル役を演じたときはマリアを奪われる被害者だったので(笑)、ドン・ジュアンだけが悪で、愛を知らない呪われた男だ、と。周囲の人物は皆、愛を知っている普通の人生を歩んでいると感じていましたが、そうではなく、みんなそれぞれにいろいろな欲を抱えていると気が付きました。ドン・ジュアンが特別に欲深いように見えるけれど、そう見せているのも周りの人の欲かもしれない。友人として一番良心的な人物として描かれているドン・カルロでさえ、彼には彼のエゴや欲があり、こうすべきだという自分の価値観を押しつけていて、本当の意味ではドン・ジュアンに寄り添わないですし、自分にないものを持っているドン・ジュアンへの嫉妬や憧れ、執着心もあるのだと思っています。

 そんな欲と欲のぶつかり合いのなかで、ドン・ジュアンが最後に死を選んで散っていく姿を観て、周囲の人々は何を感じ、どこにたどり着くのか。実際に舞台で演じてみないとわかりませんが、それを考えるのもとても面白いです。

 フラメンコを指導してくださる佐藤浩希先生が、フラメンコの原点のお話をしてくださったときに、「どんな音楽も楽器もいらない。自分の声と手拍子と体を使うだけで踊れるから、お年寄りでも小さな子供でもフラメンコを踊る。つまり、どんな人でもそれぞれの人生そのものが素晴らしい、ということを表現しているように思う」とおっしゃっていました。
 それは、この作品にも通じることだと思います。人はそれぞれ罪を犯したり、欲に溺れていたり、生きいくなかで汚れていく気がするけれど、どんな人生も命を懸けて生きているというエネルギーの強さや、互いへの愛の赦しは必ず存在する。そんなとても精神的な世界も感じていただける作品なのではないかなと思っています。

共演者の皆さんと作っていきたいです。

 今作ではマリアの彫刻家としての一面が重要になっていて、石を彫る、石の声を聞くということが大きなテーマになっています。マリアの心であり、精神世界でもある工房の場面も増え、2幕でも登場します。そこに踏み入れられる人と、踏み入れられない人に区別されていて、ドン・ジュアンは前者。2人の魂のつながりみたいなものが、工房や"石"を通して描かれているのかなと思います。マリアはドン・ジュアンにとって特別で運命的な女性。難しい役ですが、みさきちゃん(星空美咲)がどんな風に演じるのか、とても楽しみです。

 そして初演に引き続き、専科の英真なおきさんと美穂圭子さんがご出演されるので、とっても安心感があります。お稽古をしていてもお2人が作品を愛していらっしゃることが伝わってきますし、作品を深く知るお2人がいてくださることは、すごく心強く幸せです。
 お2人やみさきちゃんをはじめとする出演者で力を合わせ、刺激し合いながら作品を作っていけたらと思っています。

初めての劇場、御園座。

 昨秋の『激情』でも近くの刈谷市で公演させていただきましたが、名古屋市は昔から全国ツアー公演でお邪魔していて、なじみのある街です。食事もおいしいですし、すごくいい所だなという印象がありますね。名古屋コーチンの焼き鳥も大好きですし、ひつまぶし、みそ煮込みうどんなど、食べたい名物がたくさんあってワクワクしています。

 御園座は赤色がベースの劇場なので、『ドン・ジュアン』にぴったりな雰囲気ではないかと期待しています。今作は名古屋でしか上演しないということで特別な公演になると思いますし、舞台と劇場がとても近いようなので、より迫力を感じていただけるのではないでしょうか。ご観劇いただいた皆様が、没入していただけたのであればうれしいです!

※このメッセージは、7/11(木)のものです。

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テーマ:「ご褒美ごはん」

  • ◎『カレーとカフェラテ』

    茶色セット(笑)! カレーは大好きなのですが、刺激物ですし、私の感覚ではあまり腹持ちが良くない気がして、いざというお稽古中や公演中はあまり選ばないメニューです。だからこそ休日のお昼に食べられると、本当に幸せ。カレーの辛さをマイルドにしてくれるコーヒー、特にカフェラテとのセットを用意できると、やった!となります(笑)。
  • ◎『お寿司』

    公演中は生ものや塩分が強い食事はなるべく避けるので、あまり食べられないけれど、実はとってもお寿司が好きなんです。小さいころから、「好きな食べ物は?」と聞かれたら、必ず答えていたくらいの大好物。公演が終わったり、翌日が休みで「どうしても食べたい!」というときに、食べに行きます。
  • ◎『クスクスロワイヤル』

    フランスの国民食ともいわれる料理です。私は東京のとあるお店のクスクスロワイヤルに出合って以来、大好きになってしまい、東京公演の際は必ずお店に行って、パワーをいただいています! ラム肉のトマト煮込みとクスクスを一緒に食べるのですが、大好きなラムも味わい深く、スパイスが効いていてとてもおいしいです!