今月の永久輝せあ

今月のメッセージ

偉人の若かりしころは・・・・・・。

永久輝せあ 今月のメッセージ  このメッセージがアップされるのは、東京国際フォーラム ホールCで上演される『Goethe!(ゲーテ)』の開幕が迫っているころだと思います。梅田芸術劇場シアター・ドラマシティと日本青年館ホールで上演されるしんちゃん(極美慎)主演の『DEAN』とともに、皆様、どうぞよろしくお願いいたします!

『Goethe!』は、2021年にドイツで初演された新作ミュージカルです。不朽の名作『若きウェルテルの悩み』の誕生にまつわる物語ということで、ロッテとのロマンス要素が強いのかなと想像していたのですが、オリジナル版の映像や今回の台本を見て、恋愛模様よりも“夢”や“人生”という大きなテーマを描いたパワフルでエネルギッシュな作品という印象を受けました。

 皆様ご存じのようにゲーテは文豪であり政治家でもあり、多方面で活躍したすごく偉大な方ですが、今作で描かれているのは、自分のやりたいことと求められることのギャップに悩む未熟なただの若い青年。結構わがままで自己中心的で、破天荒です(笑)。やりたいことに没頭していて周囲からは理解されず、彼自身も理解してもらおうとは思ってもいない。「作家になりたい!」という強い思いがあれど、親の言うことに従って法律家の実習生としてヴェッツラーという田舎町にしぶしぶ行く。細やかな繊細さというより、未成熟な脆さやまだ子供っぽさが残っている青年という印象があります。

 そんな彼がヴェッツラーで、みさきちゃん(星空美咲)演じるロッテや、ほのかちゃん(聖乃あすか)演じる友人・ヴィルヘルム、だいや(侑輝大弥)演じるケストナーなどに出会う。ヴェッツラーの街の自然や人々との出会いを経て、どういう感情が生まれ、ゲーテにどういう影響を与えるのかが大きな見どころかなと感じています。

 ロッテとはまさに若者たちの恋という感じでお互いに強烈に惹かれ合うのですが、結ばれない2人の悲しい運命というお話ではなく、人生のなかで何を選択していくのかが違ったのかなと思っています。作家になりたいという夢かロッテとの暮らしのどちらを選ぶのか、自分の人生のなかで何を受け入れて選択し、成長していくのか。どんな状況で『若きウェルテルの悩み』を書くに至ったのか、書いているなかでどうなっていったのかがとても面白く描かれていると思います。

 ロッテも、ゲーテとの愛を望むのか、自分が守らなければいけないものを選ぶのか、そしてゲーテの人生がどうなってほしいのか・・・・・・。そこにロッテの夫となるケストナーの存在も大きく関わってきて、人間関係やそれぞれの思いが複雑に絡み合っている。そんな単純な三角関係ではない人間関係が、表現するのは難しいですが、とても面白いです。そしてゲーテとロッテ、ケストナーの関係性の鏡のように描かれるのが、ヴィルヘルムとその恋人のマルガレーテ。まるちゃん(美空真瑠)演じるマルガレーテには夫がいるため、ここにも三角関係があります。そんな2つの三角関係がお互いに影響し合いながら物語が進んでいくところも、注目していただければと思います。

歌で綴られるミュージカル。

永久輝せあ 今月のメッセージ  今作はせりふだけのシーンはほとんどなく、せりふにもメロディが付いていることが多いため、歌のお稽古から始まりました。私は、歌ですべてが綴られるミュージカルにはこれまで出演したことがないので、お稽古終盤に全部を通してみたときにどういう感覚になるのかなと楽しみです!
 どの楽曲も本当に素敵で、なかにはロックテイストの曲やクラシカルなものなどさまざまなナンバーがあり、すべての曲が1曲のなかの流れや和音などが高度に計算されているような印象を受けています。

 楽曲をきちんと理解して、音符に込められた意味を表現しないといけないとは思いますが、日本語脚本・訳詞・演出の植田景子先生は「美しく素晴らしい楽曲だけれど、曲を表現するミュージカルではなく、人間関係のなかで生まれるドラマを一番お見せしたい」とおっしゃっていました。ゲーテをはじめ実在する人々のなかで起こり得たかもしれないドラマに深いテーマが込められていると思うので、そういう部分をお客様にお届けできたらと思っています。

ゲーテの足跡をたどって体感したこと。

 先月少し触れましたが、先日ドイツのゲーテ街道を旅したときのことを詳しくお話ししたいと思います! 
 出発地点は、ゲーテの生誕地・フランクフルト。街の中心部にゲーテ像が立っていて、駅のすぐ近くには忠実に復元されたという生家もありました。立派なご両親や裕福な暮らしが伝わる雰囲気で、『若きウェルテルの悩み』が書かれたお部屋も。今作では牢獄で書いたという設定になっていますが、実際には恋に破れてフランクフルトに帰ってきて、友人のヴィルヘルムの死に触発されて作品を書いたようです。

 フランクフルトから電車で1時間ほどのヴェッツラーは、『若きウェルテルの悩み』の舞台になった街。今作も最初と最後の場面以外は、この街で物語が繰り広げられます。ドイツらしい木組みの建物が残るとてもかわいらしい街で、ゲーテが下宿していた家やロッテが過ごした家、ヴィルヘルムの部屋などもありました。こういう道をゲーテも歩いていたのかなと、想像しながら小さな街を散策するのも楽しかったです。ゲーテの下宿先はステーキハウスになっていたので、そちらでしっかりステーキもいただいてきました(笑)。

 その後は、ゲーテが大学時代を過ごしたライプツィヒへ。今作ではストラスブール大学が少し登場するくらいですが、実際にゲーテが通ったライプツィヒ大学も見学してきました。この街にもたくさんゲーテのモチーフが飾られていて感動しましたが、なかでも『ファウスト』に出てくる有名な酒場「アウエルバッハス・ケラー」に行くことができたのが大きかったです。 『若きウェルテルの悩み』のだいぶ後の時代に書かれた作品ですが、今作には『ファウスト』の悪魔メフィストも出てくるので勉強になりました。地下にある広々としたにぎやかな酒場で、まるでテーマパーク内のレストランのような作品の世界観を生かした雰囲気。森鴎外が『ファウスト』を日本語に翻訳すると決めたという場所らしく、それを描いた絵やメフィスト像も立っていました!

 そしてワイマールにはゲーテのお墓があり、本当にここに眠っていらっしゃるのだと思うと鳥肌が立ちましたし、最後にようやくご本人と対面できたような感覚がありました。晩年まで住んだ家には亡くなられたお部屋もあり、ゲーテがどうやって過ごしていたのかが、なんとなく想像ができるような気がして・・・・・・。まったく華美な生活ではなく、自分が純粋に興味のあるものを集めてそこから刺激を受けて暮らしていたのかな、穏やかで大らかなお人柄だったのかな、と。今回の旅を通して、晩年までのゲーテを知ることができたからこそ、 『Goethe!』で描かれる時代のさまざまな人生のきっかけや気付きが、その後の彼を形作ったのかもしれないなと感じました。

 ゲーテが景色を好きだったというドレスデンにも足を伸ばしました。都会的な美しい街ではあったのですが、想像とは少し違いました。壮大でドラマチックな大自然という感じではなく、よくある川とその向こう岸に家が並ぶような、とても静かで素朴な風景。そういう景色を「とても詩的だ」と言っていたということでも、ゲーテの人となりがわかるような気がして、心に残りました。

 この旅を通じてフランクフルトをはじめ街の至るところにゲーテ像やモチーフがあり、彼がどれだけドイツの人々に愛されているのかを強く感じましたし、何よりも些細なことでも身をもって体感したことで、感じることがたくさんありました。そんなドイツで得たインスピレーションを、作品に生かしていけたらと思っています。

 皆様、劇場でお待ちしております!

※このメッセージは、10/17(金)のものです。

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テーマ:「印象的だったドイツ料理」

  • ◎『プレッツェル』

    昨年末にドイツに行ったときに、おいしくてびっくりしました。顎が疲れるような硬いイメージがありましたが、表面はカリッとしていて歯ごたえがありつつも、想像よりもふわっとしていて。あまりにもおいしくて、何度もいただきました。今回もヴェッツラーへの電車旅で食べましたが、クリームチーズと刻んだわけぎが入ったプレッツェルが本当においしくて、いまも思い出すくらいです(笑)。
  • ◎『鹿肉の煮込み』

    ライプツィヒの酒場「アウエルバッハス・ケラー」の名物だという鹿肉料理が、とてもおいしかったです。大学生だったゲーテもよく通ったお店で、もともとこの酒場にあった伝説を基にいろいろな話を織り交ぜて『ファウスト』を書いたというエピソードがあり、ゲーテが着想を得たことを描いた絵もあったりして。そんなお店の雰囲気を含めて、最高の体験でした!
  • ◎『牛肉の煮込み』

    ワイマールのゲーテ邸近くの「白鳥亭」というレストランに、「ゲーテのお気に入り」という名前のメニューがあったので頼んでみたら、ポトフの牛肉版というような煮込み料理でした。とても素朴な味わいですごくおいしかったです! こういうシンプルなものを最後まで愛していたことを思うとゲーテという人が少しわかったような気がしましたし、いまもそんなメニュー名が残っていることがすてきだなと思いました!