今月の永久輝せあ

今月のメッセージ

ゲーテの多彩な作品が織り込まれた物語。

永久輝せあ 今月のメッセージ  このメッセージがアップされるころには、『Goethe(ゲーテ)!』の東京国際フォーラム ホールC公演が終わり、梅田芸術劇場メインホール公演の千秋楽間近だと思います。ご観劇いただいた皆様、ありがとうございました!

 今作は『若きウェルテルの悩み』の誕生にまつわるストーリーが軸になっていますが、処女作である『ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』や『ファウスト』のほかにも、「歓迎と別離」「ミニヨンの詩」などのゲーテが詠んだ詩や名ぜりふも織り込まれています。なかでも『ファウスト』は重要なモチーフになっていて、悪魔メフィストがドラァグクイーンのような雰囲気で登場したりと、宝塚バージョンでよりショーアップされた場面になっているかと思います! 

 メフィストは、人間を誘惑する悪魔のようでもあり、死がよぎった人が見る“非現実”のようなイメージもあるのですが、そういう役割をメフィストに与えること自体が、ドイツで作られた作品だけあるなと感じます。そして今作は、ドイツのハンブルク・バレエに在籍されていた大石裕香先生と、ドイツのレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーで舞踊芸術監督を務められていた森優貴先生が振付をしてくださっていて、本当に素敵なダンスばかり。ウェルテルとロッテの心情を表現するダンサー役の子もいたりして、楽曲だけでなく、美しい場面も大きな見どころになっています。

 衣装は、有村淳先生がデニム素材など現代的な要素や細かいデザインに遊び心を取り入れながら、かっこよく仕上げてくださっています。そしてセットは、階段やハシゴなどシンプルな要素で構成されています。馬という設定で自転車が出てきたりもしますが、そういう現代性が見どころというわけではなく、登場人物自体にドラマがあり、その掛け合いを際立たせるためにも、説明的な要素をそぎ落としているのかなと感じています。

“平凡”ということ、そしてロッテや友人ヴィルヘルムとの関係性は・・・・・・。

永久輝せあ 今月のメッセージ  ゲーテの役を模索していくなかで、お稽古当初から「平凡」というキーワードが特に印象的でした。ゲーテが歌うソロ曲「いつになれば」という曲にも「いつになれば本当の自分に出会えるのか」という歌詞があるのですが、ゲーテには「みんなが通ってきた道を通りたくない」「自分だけの道を切り開いていきたい」「平凡でたまるか!」という思いがある。そんなゲーテがみさきちゃん(星空美咲)演じるロッテに出会って恋をして、その先には当然、結婚という平凡な生活が待っています。ゲーテが自分の未来に対して、果たしてどう感じて、どういう選択をするのかが鍵です。
 そして2人の恋の結末は、ロッテとの未来を捨てきれないゲーテに対して、「あなたは才能と生きなさい」とゲーテに平凡な道を選ばせない彼女の愛の結果だったのだと思っています。

 最初は一目惚れのような感じでロッテに惹かれますが、現代的な考え方を持っていることや、たくさんいる弟妹たちの世話をしながら夢や憧れも忘れない、とてもパワフルでエネルギッシュな部分にも魅力を感じています。ゲーテも父親に「こう生きるべきだ」と言われても、作家になりたいという夢を持っているので、そういう部分で相通じるものがあったのかもしれません。
 何よりもロッテは、ライプツィヒの出版社に「平凡な才能だ」と言われて自信を失っていたゲーテに、「そんな才能を信じないなんてバカバカしい! 才能を信じなきゃダメよ」と、ゲーテを唯一褒めてくれた。ゲーテも自分と同じように芸術を愛する人を求めていたのかなと思いますし、感受性という意味でも2人はよく似た部分があったのかなと感じます。

 ほのかちゃん(聖乃あすか)演じるヴィルヘルムとは職場の同僚で、ゲーテがヴェッツラーに来て初めてできた友達です。ロッテと出会ったときや彼女の家に遊びに行くときも、恋するタイミングも一緒。ヴィルヘルムはゲーテの自由さに感化されますし、ゲーテは恋に真っすぐなヴィルヘルムからパワーや勇気をもらう。お互いが刺激し合い、作用し合っている“表と裏”のような関係性。実際のゲーテにとってヴィルヘルムは『若きウェルテルの悩み』を書く原動力になった友人です。

 ロッテと婚約するだいや(侑輝大弥)演じるケストナーには、残念ながらゲーテのような感受性はなく、ロッテはゲーテのようなあふれる豊かな感性や才能、芸術的なものへの憧れが強いので、ちょっと切ないです。ケストナー自体はとても素敵な人で、無器用なだけなので・・・・・・。ゲーテとケストナーは最後には決闘することになってしまいますが、それまでは仕事でも信頼してくれていて、彼のプロポーズの手助けするような、友人としての感情も芽生えています。

 ロッテへの失恋、友人の死、ケストナーとの決闘の罪で逮捕されたりと、何もかも失っていくゲーテですが・・・・・・開幕してから感じたことは、また来月にお話ししたいと思います!

さまざまな経験をさせていただいた2025年。

 皆様にとって、今年はどんな1年でしたでしょうか? 2025年も残りわずかということで、1年を振り返ってみたいと思います!

 今年は『エンジェリックライ』『Jubilee(ジュビリー)』の東京宝塚劇場公演から始まりました。トップお披露目公演ということで、宝塚大劇場公演中は必死で、一生懸命頑張って駆け抜けたという感覚でしたが、東京宝塚劇場公演はまた違った難しさを感じました。これまでもやるべきことに向き合ってきて、それは変わらないのですが、やはり作品や公演に対しての責任の重さが全然違う。宝塚大劇場公演を経て、お芝居にもレビューにも少し慣れてきたなかで、大千秋楽に向けてもう一段階全体のレベルを上げていくにはどうすればいいのか。自分の役を深めつつ、周囲に及ぼす影響やみんなにとって良い環境作り、作品全体のことを考えながら、背中を見せて組を率いることの難しさを痛感しました。ですが、演じていた天使アザゼルは、そういう悩みなども含めて背中を押してくれるような役でしたし、作品自体も明るく前向きな雰囲気だったので、とても助けられました。

 3月の博多座公演『マジシャンの憂鬱』『Jubilee(ジュビリー)』は、すごく楽しかったです! 花組としても私としても念願の博多座公演で、私たち出演者だけでなくお客様も公演と博多の街を心から楽しもうとされていることが伝わってつながっているような感覚もありましましたし、お客様や街からすごくパワーをいただき、また1つ違う景色を見られたように感じました。
 マジシャンのシャンドール役は自分とは真逆の人物だったので、物事に対しての新たな捉え方をはじめ、大きな学びがありました。作・演出の正塚晴彦先生のお力もあり、いま振り返ってみてもそれ以降の自分にとてもいい影響があったように感じます。

『Jubilee(ジュビリー)』は9月に開幕した宝塚大劇場公演から3月の博多座公演まで、長い期間上演させていただきましたが、ずっと新鮮な気持ちで取り組むことができました。博多座公演までさせていただいたことで、今作が完成したような感覚がありました。

 その後の『悪魔城ドラキュラ』~月下の覚醒~ 『愛, Love Revue!』はまず、大千秋楽まで演じ切るということが、私にとっては大きな課題でした。宝塚大劇場公演が始まった当初は体力的に大丈夫かな・・・・・・と不安でしたが、何がなんでもやり切らないと!と。初めて宝塚歌劇をご観劇いただいたゲームファンの方の熱量、長年宝塚を愛していただいている皆様のパワーもお借りして、新しいものとずっと愛されてきたものの融合を感じられて、すごく勇気をいただいた2作品でした。自分自身もそうですし、いまの花組で向き合えて良かったな、と。喜んでいただけるということが何よりのエネルギーになるのだなと、改めて感じました。

 そして今作の『Goethe!』。ゲーテが未熟なところから成長していくように、私自身も“何か”に気付いて、自分のなかで変わらないといけない、1つ乗り越えて成長しないと今作はできないということを実感しています。出演者一人ひとりにとっても挑戦だと思いますが、私にとっても未知な世界でチャレンジングな作品なので、精一杯頑張りたいと思います!
 そして花組としては、しんちゃん(極美慎)主演の『DEAN』のメンバーと合流して、次回の宝塚大劇場公演に臨めることも楽しみです。

 皆様、本年も応援していただき、本当にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします! よいお年をお迎えくださいませ。

※このメッセージは、11/12(水)のものです。

永久輝せあ2026カレンダー撮影メイキング動画はこちら
三井住友カード冠協賛コーナーはこちら
三井住友カードの会員なら、貸切公演も申し込み可能!ご入会はこちら

テーマ:「今年、感動したこと」

  • ◎『前田知洋先生のマジック』

    『マジシャンの憂鬱』のときにマジック指導でお世話になった前田知洋先生が、シャンドールからインスピレーションを得たマジックをお稽古中に披露してくださったことがありました。機械仕掛けの喋る小鳥が引いたトランプを教えてくれるというものなのですが、マジック自体にも驚きましたし、とてもロマンチックで素敵で・・・・・・。しかも機械仕掛けの小鳥が生まれたのは、だいたいシャンドールと同じころだということもお伺いして、そのことにもすごく感動しました!
  • ◎『ゼンパーオーパーでの体験』

    先日のドイツ旅行で、世界屈指のオペラハウス・ゼンパーオーパーに行ってきたのですが、素晴らしい劇場でした! 入り口やロビー、舞台の近くにゲーテの像や絵があったこともそうですし、そこで観た『エリザベート』もとても印象に残りました。コンサートバージョンでの上演で、セットは四角の枠、背景はプロジェクションマッピングというシンプルな構成でしたが、十分に世界観とドラマが感じられて感動しましたし、現地の観客に交じって原語で観たことも大きな経験でした。
  • ◎『まゆぽんさんとのお芝居』

    『悪魔城ドラキュラ』でドラキュラ伯爵を演じられたまゆぽんさん(輝月ゆうま)とのお芝居は、毎回とても心が動きました。個人的には、お客様が没入できなくなってしまうと思っているのでお芝居でわざわざ泣くことはないのですが、ドラキュラ伯爵との対峙シーンは毎回涙が出てきてしまいました。ある時、新たなものが見えた感覚があり、それをまゆぽんさんにお伝えしたら同じように感じていただいていたことも、とってもうれしかったです!