今作は、第一部「三銃士」で名高いデュマの小説「ダルタニャン物語」の第二部「二十年後」に登場するキャラクターの年代設定を変え、人物造形など原作のエッセンスはそのまま生かしています。実際のルイは、双生児入れ替え話や鉄仮面伝説、ヒールを履いてバレエをしていたなどエピソードに事欠かない人なので、そういったものを取り込みつつも、おとぎ話のような物語を作りました。手前味噌ですが、「換骨奪胎(かんこつだったい/先人の着想を借用し、新味を加えて独自の作品にすること)」の“三銃士”になろうかと思います。
そのなかで一番のオリジナルは、ルイ14世が女性であるということ。トップ娘役の愛希れいかが演じますが、消えた双子の弟の代わりに“王様職”をやっている。手塚治虫先生の漫画「リボンの騎士」に出てくる、男装して王子を演じるサファイア姫から着想しました。
今回この作品を取り上げたのは、トップスターの珠城りょうに伸び伸びとした明朗快活な男性を演じさせたかったから。シリアスな色を帯びるのではなく、単純明快で度量の広いダルタニアンになっていると思います。原作のダルタニアンは、強い目的をもっていそうで、もっていない。銃士隊であることに満足しています。ある意味銃士隊として忠実な人で、それだけだとドラマがないので、おもしろい役と恋をさせたいな、と。そこで、ルイ14世が実は女性だという秘密を知って、彼女との恋愛を描くことにしました。愛希はもともと男役でしたから、男女の間を行き来する役は、彼女にしかできない表現になると思います。
美弥るりか演じるアラミスは、粋人で伊達男。世の中を楽しんでいる男性です。それを彼女が得意とする濃厚さで、余裕をもって演じてくれると思います。アトスの宇月颯は冷静沈着で、渋さが魅力。ストイックな役柄をイメージして作りました。ポルトスは暁千星。若いですが、生きの良さだけでなく青年としての太さが出てくればおもしろいと思います。今作から月組の大劇場公演に加わった月城かなとは、オリジナルキャラクターのベルナルド。銃士隊と敵対する護衛隊の隊長で、彼らを圧迫してくるような悪役となっています。
両者が剣を交えるところがピークになるように作品を作っていますが、そこに根深い因縁はなし。今作は、あくまでもエンターテイメント。冒険活劇であり、ロマンスもある。深い感動は別の作品にお任せするとして(笑)、娯楽作品として楽しんでいただければと思っています。
月組の良いところは、昔から芸熱心で細部まで凝るということ。そして、時代の風、匂いに敏感な印象があります。そういう組のカラーが今作にも生かされていますし、珠城率いる月組の勢い、熱が伝わればうれしいです。
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