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基本給とは?額面給与が高くても基本給が低いと損をする理由
基本給とは、その名のとおり給与の基本となるものですが、実際に支給される額とは違うため、あまり気にしていない人も多いようです。しかし、基本給は残業手当や賞与、退職金などの金額にも影響する重要なものです。さらに、基本給が低いと、月々の給与が高くても時間外手当や賞与、退職金などで損をすることがあります。
ここでは、基本給の概要や基本給と固定給の違いのほか、基本給が低いことのデメリットについて解説します。
- 記事の目次
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基本給はどうやって決まる?
基本給は一定期間働くことで、必ずもらえる金額と考えていいでしょう。一般的には、通勤手当や残業手当、インセンティブといった各種手当を含まず、保険料や税金などが差し引かれていないベースとなる給与のことを指します。
基本給の決め方は会社ごとに異なり、おもに以下のような種類があります。
仕事給式
仕事給型とは、仕事内容や職務遂行能力、業績、成果などを踏まえて基本給を決める方式です。
学歴や年齢、勤続年数などは基本給の金額に影響せず、仕事の成果やこれまでの実績といった実力のみで基本給が定まります。欧米でよく採用されていますが、近年は日本でも採用する会社が増えつつあります。
属人給式
属人給型とは、学歴や年齢、勤続年数といった指標で基本給を決める方式です。
仕事内容や職務遂行能力、業績などは基本給の金額に影響せず、本人の性質にもとづいて基本給が定まります。いわゆる年功序列型の給与体系で、入社後の努力によって基本給を変えることができません。一方、年齢を重ねるにつれて自動的に収入が上がるため、ライフプランを立てやすいといえるでしょう。
総合給式
総合給式とは、仕事給型と属人給型を組み合わせて基本給を決める方式です。
学歴や年齢、勤続年数などをベースに基本給を算出しますが、そこに本人の実力や実績を加味して最終的な金額を算出します。これは、多くの日本会社で採用されている基本給の決め方です。
基本給を含めた給与の内訳
基本給を含めた給与は、「基準内賃金」と「基準外賃金」で構成されています。これらは、法律で決められた言葉ではありませんが、就業規則や給与規定などで使われています。それぞれの性質について解説していきましょう。
基準内賃金:基本給と変動のない手当
基準内賃金は、基本給と変動のない手当を合わせたものです。所定の労働時間を働けば、毎月必ず支払われる金額といえるでしょう。変動のない手当の例としては、保有しているスキルに応じて支払われる職能給や、就任している役職に応じて支払われる役職手当などが挙げられます。
ただし、基準内賃金が何であるか、法律で決まっているわけではなく、会社によっては基準内賃金を時間外労働手当などの割増賃金の算定基準額、つまり基本給と定めている場合もあります。この場合、変動のない職能給や役職手当などは基準外賃金になります。
基準外賃金:変動する手当
基準外賃金は、毎月の就業内容に応じて金額が変動する手当を指します。時間外労働手当や休日出勤手当、深夜労働手当といった手当が基準外賃金に該当します。そのほか、労働者の生活条件に応じて支給される住宅手当、家族手当なども、基準外賃金にあたるでしょう。
会社が基準内賃金を、割増賃金の算定基準額と定めている場合は、それ以外の各種手当が基準外賃金にあたります。なお、基準内賃金・基準外賃金については。就業規則に掲載されているため、確認しておくと良いでしょう。
基本給と額面給与と手取り給与の違い
基本給や額面給与、手取り給与は、すべて会社から支給されるお金となりますが、それぞれ意味合いが違います。ここでは、それぞれの違いについてご説明しましょう。
額面給与
額面給与とは、基本給と各種手当を合算した総支給額のことを指します。
額面給与は、以下のように表すことができます。
額面給与=基本給+各種手当(残業手当、休日出勤手当、通勤手当、家族手当、住居手当など)
求人票などに記載されている給与は、額面給与であることが一般的です。額面給与と賞与を合算した金額が年収となります。
新卒の初任給の平均は?基本給や額面、手取り給与の違いを含めて解説
手取り給与
手取り給与とは、額面給与から各種税金や保険料などが差し引かれた金額のことを指します。
手取り給与は、以下のように表すことができます。
手取り給与=額面給与-各種控除(健康保険料、厚生年金、雇用保険料、所得税、住民税など)
求人票に記載された額面給与がそのまま支給されるわけではなく、実際は健康保険料や厚生年金、所得税など各種保険料や各種税金が差し引かれた金額が支給されます。手取り給与は一般的に、額面給与の75~85%が目安となります。
基本給と固定給の違い
基本給と似たものとして固定給があります。固定給とは、毎月決まった給与が支給されることを指し、時間や日数、月などの単位で決まった給与を支払う制度のことです。基本給も毎月決まった金額ですが、固定給には通勤手当や家族手当、住宅手当といった変動しない手当が含まれています。手当が含まれているかどうかが、基本給と固定給の違いと考えていいでしょう。
ただし、固定給には各種手当が含まれますが、残業手当や休日手当のような、月によって変動する要素は含まれません。
手当が含まれている分だけ、固定給は基本給より高い金額になっている会社が多くなります。そのため、求人募集などの給与情報が同じ金額だったとしても、固定給が表示されている会社と基本給が表示されている会社では、実際に支給される額が違ってくることがあります。給与の額だけではなく、その内訳がどうなっているのかも考えることが必要です。
基本給が低いと損をする?
額面給与や手取りの金額が高ければ、特に基本給の金額は気にならない人もいるでしょう。しかし、基本給が低いことで、損をすることがあります。
最後に、基本給が低いことで損をしてしまう場面をご紹介しましょう。
時間外労働手当が低くなる
原則、1日8時間以内、週40時間以内が法定労働時間となりますが、法定労働時間を超えて働くことを、時間外労働といいます。
また、法定労働時間内であっても、深夜や法定休日に働いた場合は時間外労働となります。実際に働く所定労働時間は会社が決めていますから、1日の所定労働時間が7時間の会社もあるでしょう。その場合、7時間働いた後に1時間残業しても、1日に8時間以内という法定労働時間内ですから、時間外労働にはなりません。
労働基準法によって、法定労働時間以外に働いた場合は割増賃金を支払うことが決められており、このとき割増しされる基準となるのが基本給の金額です。割増率は、以下のように労働条件によって決められています。
■割増賃金の割増率
労働条件 | 割増率(基礎時給比) |
---|---|
法定内残業(1日8時間、週に40時間を超える) | 25%以上 |
法定外残業(1ヵ月に60時間を超える時間外労働) | 25%以上(大企業は50%以上) |
法定休日労働 | 35%以上 |
深夜労働(22:00~5:00) | 25%以上 |
時間外労働+深夜労働 | 50%以上 |
休日労働+深夜労働 | 60%以上 |
- 計算するときは50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げ
- 法定外残業の割増率は、2023年より中小企業も50%以上
法定休日とは、週に1回の休日か、4週間を通じて4日の休日のことです。週休2日制であれば2日ある休日のうち1日が法定休日、4週8休制であれば8日のうち4日が法定休日です。つまり、週休2日制の会社で日曜が法定休日の場合、土曜と日曜どちらも働いたとしても、法定休日労働となるのは日曜だけです。このとき、土曜は通常の労働時間となり、超過した分は時間外労働となります。
労働条件が重なればさらに加算となり、例えば法定休日に出勤してさらに時間外労働となった場合、35%と25%を足し、60%増しとなります。
時間外労働手当を計算するには、基本給を時給換算した基礎時給が必要です。「基本給÷月の労働日数÷1日の所定労働時間」で計算しましょう。
例えば、基本給が20万円で月の労働日数が20日、1日の所定労働時間が8時間の場合、時給は1,250円(20万円÷20日÷8)ということになります。時間外労働した場合は1時間あたり25%増しの1,563円です。
このとき、基本給が18万円だとしたら、時給換算すると1,125円、時間外労働した場合は1,406円ですから157円の差です。1時間では大きな差はありませんが、1ヵ月、1年の単位で考えれば、少ない金額ではありません。
賞与(ボーナス)額が低くなる
賞与は、定期的な給与と別に支給されるもので、ボーナスとほぼ同義といえます。賞与の支給は法律で義務付けられたものではありませんから、会社の状況や方針によって支給の有無、算定方法は異なります。しかし、規定のある会社では、基本給を基準に算定する場合が多いです。「給与の◯ヵ月分」などと表現されていると額面給与で考えがちですが、このときの給与は基本給であると考えたほうがいいでしょう。
基本給を基準に賞与を算定する場合、手取り額が同じだったとしても、基本給に差があれば賞与にも差が出ることになります。例えば、賞与が基本給の3ヵ月分の会社で、基本給が20万円と18万円の人では、賞与額は60万円と54万円で、6万円の差となります。
退職金額が低くなる
退職金についても、賞与と同様に必ず支給すると義務付けられたものではありません。会社によって支給の有無はもちろん、支給金額や退職金制度設計は異なります。
退職金を基本給と連動させる場合、退職時の基本給や勤続中の平均基本給に、勤続年数別の支給率を掛けて計算する方法が採られることが多いようです。つまり、額面給与が高くても基本給の額が低ければ、退職金の額が低くなってしまうということです。
ただし、基本給と連動させる算定方法だと、退職金の支給額がどんどん高くなって会社の経営を圧迫することがあります。そのため、在籍年数に応じてあらかじめ退職金額を決めておく方式や、人事考課や保有資格などをもとに退職金を算定する方式を採る会社も増えてきています。
手当がカットされることがある
基本給にさまざまな手当が加算されて額面給与となりますが、このような手当は必ずもらえるとは限りません。個人の働き方が変わり、これまで多かった残業や休日出勤がなくなったという場合は、その分の時間外労働手当はなくなりますし、住居手当や資格手当などが会社の方針でなくなることも考えられます。
手当がなくなった場合、額面給与に対して基本給の割合が小さいと、支給される給与額が大きく減ってしまうことになります。基本給は「不利益変更禁止の原則」といって、労働契約法で簡単に減らすことができなくなっています。手当が廃止されても、基本給が高ければある程度安心といえるでしょう。
基本給の意味を理解しよう
基本給は、給与明細に記載されたり、実際に支給されたりする金額とは違うため、あまり重視していない人は多いかもしれません。しかし、基本給は時間外労働手当の算定基準となりますし、賞与や退職金について、基本給を基準にしている会社もあります。
就職活動や転職活動を行う際は、求人票や会社案内に記載された金額が、基本給なのか固定給なのか、各種手当を含んだ見込み額なのかを、しっかり確認しておきましょう。
- 2020年5月時点の情報なので、最新の情報ではない可能性があります。