大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人の地方事務所で上場企業の法定監査などに10年ほど従事した後、出産・育児をきっかけに退職。現在は、個人で会計事務所を開業し、中小監査法人での監査業務を継続しつつ、起業女性の会計・税務サポートなどを中心に行っている。
【保有資格】公認会計士、税理士、AFP
内山会計事務所
私たちは、日々さまざまな種類の税金を支払っています。会社員の場合は、給与から自動的に徴収されていたものも、個人事業主として独立をすれば、すべて自分で納めなくてはいけません。税金を納め忘れていると、追徴課税などのペナルティを受けることもあるため注意が必要です。
そこで、ここでは個人事業主が納めるべき税金について、その種類を詳しくご紹介します。
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税金は大きく分けると2種類
税金には大きく分けて「国税」と「地方税」の2種類があります。それぞれ確認しておきましょう。
国税
国税とは、その名のとおり国に納付する税金のことです。国税には所得税や法人税などのように納税者が直接税金を納付する「直接税」のほか、消費税のように税金の納税義務者が最終負担者とならない場合がある「間接税」、不動産取得税、印紙税などをはじめとする流通移転などに関連して課税される「流通税」の3つに大きく分けられています。
地方税
都道府県や市区町村に納付する税金は、地方税といいます。地方税は、さらに納める先によって「都道府県税」と「市区町村税」に分かれます。代表的なものに道府県民税と市区町村民税がありますが、これらはまとめて「住民税」とも呼ばれます。また、固定資産税、自動車税なども地方税です。
個人事業主が納めなければならない税金の種類
個人事業主となった場合、以下のように納めなければいけない税金が4種類あります。ここからは支払わなければならない各税金に関して確認していきましょう。
対象者 | ||
---|---|---|
国税 | 所得税 | 一定の所得がある方 |
消費税 | 前々年度の課税売上高が1,000万円以上の場合と、それ以下の場合のインボイス登録事業者の方 | |
地方税 | 住民税 | 一定の所得がある方 |
個人事業税 | 指定された事業者 |
所得税
個人の所得に対して課せられる税金で、1月~12月の1年間で得た所得に応じて税率が適用され、個人事業主の税金で最も大きな部分を占めます。個人事業主の場合、収入から経費や控除を引いた事業所得などを計算し、所得控除などを行った「課税所得」に応じた税金を支払います。
課税所得(収入-経費-青色申告特別控除額-所得控除額)×税率-税額控除
所得税では、所得金額が大きくなるほど税率が高くなる「累進課税制度」が採用されています。課税所得に応じた税率は下記表のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
(出典)国税庁「No.2260 所得税の税率/計算方法・計算式 」を引用
- ※別ウィンドウで「国税庁」のウェブサイトへ遷移します。
- ※上記ウェブサイトは予告なく変更、または削除される可能性があります。その場合は国税庁ホームページからご確認ください。
- ※別ウィンドウで「国税庁」のウェブサイトへ遷移します。
例えば、経費や所得控除などを差し引いた後の課税所得が400万円の場合、所得税は下記のとおりに算出されます。
400万円 × 20% - 42万7,500円 = 37万2,500円
1年分の所得に対しての所得税を計算し、翌年の2月16日~3月15日までに確定申告書を税務署に提出します。
消費税
消費税は、「課税事業者」が納める税金で、ほぼすべての取引に対して課税されるものです。課税事業者は、原則「課税売上高が1,000万円を超える事業者」を指しますが、2023年10月からスタートしたインボイス制度により、課税売上高が1,000万円以下の事業者でも課税事業者として登録する場合があります。
消費税の納付時期は3月になります。消費税の税額は、課税売上げにかかる消費税額から仕入れにかかった消費税額を控除して算出します。
消費税額の算出方法は「一般課税」と「簡易課税制度」の2種類がありますが、インボイス制度を機に課税事業者となった場合は、「2割特例」を選択することもできます。2割特例とは、売上税額の8割を差し引いて納付税額を算出するしくみです。
2割特例は、確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用され、事前の届出手続きなどは必要ありません。
住民税
個人事業主が居住している都道府県、市区町村に納める税金のことです。住民税は「所得割」と「均等割」の2つから成り立っており、所得割は前年の所得に対して一律10%の税金が課されます。一方、均等割は5,000円とされていることが一般的ですが、自治体によっては異なる税額が適用される場合もあります。
住民税は、確定申告で申告した所得金額をもとに税額が決定され、毎年6月に「住民税決定通知書」と納付書が送られてきます。個人事業主の場合は「普通徴収」の対象となり、6月、8月、10月、1月の年4回払いか、もしくは6月に1回払いにて納税します。
個人事業税
個人事業主に対して、その事業内容に応じて課税される税金のことです。税率は3~5%で、確定申告をしている場合は申告不要です。納付は原則8月と11月の年2回で、都道府県に納める必要があります。事業の種類別に税率が決まっているので、以下の表を参考にしてください。
ただし、個人事業税には年間290万円の「事業主控除」が適用されるため、事業所得が年間290万円までの個人事業主は支払う必要がありません。なお、所得税や住民税は経費とすることができませんが、個人事業税については「租税公課」として経費に計上することができます。
区分 | 税率 | 事業の種類 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
第1種事業 (37業種) |
5% | 物品販売業 | 運送取扱業 | 料理店業 | 遊覧所業 | 保険業 |
船舶 定係場業 |
飲食店業 | 商品取引業 | 金銭貸付業 | 倉庫業 | ||
周旋業 | 不動産 売買業 |
物品貸付業 | 駐車場業 | 代理業 | ||
広告業 | 不動産 貸付業 |
請負業 | 仲立業 | 興信所業 | ||
製造業 | 印刷業 | 問屋業 | 案内業 | 電気供給業 | ||
出版業 | 両替業 | 冠婚葬祭業 | 土石採取業 | 写真業 | ||
公衆浴場業(むし風呂など) | 電気 通信事業 |
席貸業 | 演劇興行業 | 運送業 | ||
旅館業 | 遊技場業 | - | - | - | ||
第2種事業 (3業種) |
4% | 畜産業 | 水産業 | 薪炭製造業 | - | - |
第3種事業 (30業種) |
5% | 医業 | 公証人業 | 設計 監督者業 |
公衆浴場業(銭湯) | 歯科医業 |
弁理士業 | 不動産 鑑定業 |
歯科 衛生士業 |
薬剤師業 | 税理士業 | ||
デザイン業 | 歯科 技工士業 |
獣医業 | 公認 会計士業 |
諸芸師匠業 | ||
測量士業 | 弁護士業 | 計理士業 | 理容業 | 土地家屋調査士業 | ||
司法書士業 | 社会保険労務士業 | 美容業 | 海事 代理士業 |
行政書士業 | ||
コンサル タント業 |
クリー ニング業 |
印刷製版業 | - | - | ||
3% | あんま・マッサージまたは指圧・はり・きゅう・柔道整復 その他の医業に類する事業 |
装蹄師業 |
(出典)東京都主税局「個人事業税/4 法定業種と税率 」を引用
- ※別ウィンドウで「東京都主税局」のウェブサイトへ遷移します。
個人事業主の節税対策
個人事業主には納めるべき税金がいくつもありますが、適切な対策を取ることで税負担を軽減することができます。ここでは、個人事業主が取り組みやすい税負担軽減策を紹介します。
青色申告
個人事業主が行う確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2つの方法があります。このうち、より多くの所得控除を受けられるのは青色申告です。
青色申告を行う個人事業主には「青色申告特別控除」が適用され、最高55万円の所得控除が受けられます。さらに、e-Taxによる電子申告を行い、電子帳簿保存の要件を満たしている場合は65万円の所得控除が適用されます。
また、個人事業主の中には配偶者や家族へ給与を支払っているケースもあるでしょう。通常、家族への給与は経費として計上できませんが、青色申告の場合は一定の条件を満たすと「青色事業専従者給与」として経費計上することが認められています。
適切な経費計上
税負担を軽減するには、経費を見直すことも有効です。
例えば、自宅と事務所を兼用している場合は、家賃や光熱費などを按分して経費に計上することができます。家賃12万円の自宅の3分の1のスペースを事務所として利用しているとすると、そのうち4万円を経費として計上できるしくみです。
年間にすると48万円の経費となりますので、税負担の軽減にも一定の効果があるといえます。
そのほかにも、仕事で使用する消耗品の購入費など、計上を見落としている経費もあるかもしれません。個人事業主はプライベートと事業用の支出の境目が曖昧になりやすいからこそ、しっかりと経費の管理を行うことが大切です。
控除を見直す
個人事業主の税負担は、適用される所得控除を増やすことでも軽減することができます。所得控除は全部で15種類あり、中には個人事業主がぜひ知っておきたい控除もあります。
そのひとつが、「小規模企業共済等掛金控除」です。小規模企業共済等掛金控除とは、小規模企業共済に支払った掛金を全額所得から控除できるものです。
小規模企業共済は、経営者や個人事業主が退職金を積み立てていく制度で、退職金のない個人事業主には将来の備えにもなるメリットがあります。
そのほか、iDeCoの掛金も小規模企業共済等掛金控除の対象です。税負担軽減のためだけでなく、将来のための資産形成の一環として、小規模企業共済やiDeCoへの加入を検討してみるのもよいでしょう。
短期前払費用の特例を活用
前払費用を支払ったときは、「短期前払費用の特例」を受けられる場合があります。
短期前払費用とは、継続的に利用するサービスの利用料について、まだサービスを受けていない部分に対する支払い費用のことです。
例えば、家賃や駐車場代などを1年分まとめて前払いした場合、支払い時点でその全額を経費として計上することができます。ただし、短期前払費用の特例を受けるためには、下記3つの条件を満たす必要があります。
- 支払った日から1年以内にサービスの提供を受けるもの
- 毎期継続して経費として計上するもの
- 収益の計上と対応させる必要がない
継続的に利用するサービスの費用を前払いしたときは、短期前払費用の特例が活用できないか検討してみましょう。
法人化
一定の収益を上げている個人事業主は、法人化によって税負担を軽減できるケースがあります。
個人事業主が事業で得た所得には「所得税」が課されますが、所得税は課税所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税制度」が採用されています。そのため、事業による利益が増えるほど税負担が大きくなることに悩む個人事業主も少なくありません。
一方、法人に課される「法人税」は15%(800万円超の部分には23.20%)の税率が適用され、個人事業主のように「所得が増えるほど税率が高くなる」という心配がありません。「所得税の負担が大きい」という悩みを抱えている個人事業主は、法人化によって税負担の軽減が図れる可能性があります。
万が一、税金が支払えないときはどうすればいい?
個人事業主にはさまざまな税金の納税義務がありますが、万が一、納税ができない事情がある場合には、「猶予制度」を利用できる可能性があります。納税の猶予が認められる条件としては、自然災害やテロなどの人為的災害、盗難などに遭ったとき、納税者やその家族に傷病が発生したとき、事業を廃止、または休止したとき、事業に著しい損失・損害を受けたときなどです。
猶予制度を利用する場合には、所轄の税務署に申請します。先の条件を満たし、申請が認められると、原則として1年以内に限った分割納付となります。気を付けなければいけないのは、免除ではなくあくまで「猶予」であること。いずれ、納税は必要になります。
個人事業主の人はこの記事の内容を参考にして、支払う税金にはどのようなものがあるのかを正しく理解しておきましょう。
税金の納付方法
税金の納付方法には大きく分けて3つのパターンがあります。ここからはこの3つの方法について説明いたします。
直接納付
税務署や金融機関の窓口やコンビニエンスストアで現金を支払い、直接納付を行います。その場で収納印をもらえる利点はありますが、現金を用意して出向く必要があるので注意が必要です。
振替納税
納税者名義の口座から納税額分を引き落とす方法になります。はじめに口座振替依頼書を税務署と金融機関に提出しなければなりませんが、同じ内容の税金については翌年以降も引き継がれるので、納付忘れもなく安心です。ただし、一部銀行などで対応していないことがあります。また、口座残高が納税額より少ない状態ですと未納となってしまいますので、その点には注意してください。
電子納税
インターネットの専用サイトを通じて税金を納付する方法もあります。主にe-Taxによるダイレクト納付やインターネットバンキングから納付する方法、クレジットカードを利用しての納付方法がそれにあたります。
これらの方法は、e-Taxの利用可能時間内で納税手続きを行う金融機関のシステムが動いている時間であれば、現金を持ってどこかへ出向く必要もなくとても便利です。また、クレジットカードを利用した納付の場合、手続きを行う時点での口座残金を気にする必要がありません。
業務効率化と付帯サービスを考えると納税はクレジットカードがおすすめ
業務の効率化を考えると、納税はクレジットカード払いやe-Taxがおすすめです。現金納付となると銀行や税務署、コンビニなどに出向く必要があり、一部の銀行や税務署、コンビニでは振込み手数料もかかる場合があります。
また、金融機関の口座振替は、対応する税目がクレジットカードよりも限られています。e-Taxなどは一度システムに登録してしまえば作業は簡単ですし、クレジットカードであれば、スマホを使って時間と場所を選ばずに、簡単に税金の支払いができるのでおすすめです。
そのほか、法人カードには、レンタカーをお得な価格で利用できるなど、ビジネスシーンで役立つさまざまな付帯サービスがついていますので活用してみましょう。納税時にポイント還元もあるので、ポイント還元率の高いカードを利用し、経費を補うために使用するなどにも使えます。
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よくある質問
Q1.個人事業主が納めなければならない税金には、どういうものがありますか?
国税(所得税や消費税)と地方税(住民税や個人事業税)があります。ただし、事業所得が年間290万円までの個人事業主は、個人事業税を支払う必要がありません。
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Q2.税金が払えない場合はどうすればいいですか?
納税ができない事情がある場合には、「猶予制度」を利用できる可能性があります。自然災害や盗難、傷病などによって事業を廃止・休止した場合などは、所轄の税務署へ申請することで納税の猶予を受けることができます。
詳しくは以下をご覧ください。
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